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  • 掲載:2023年12月14日 更新:2023年12月14日SPECIAL INTERVIEW

素材の制作現場は、クリエイターにとって「宝の山」

永山祐子様

経年変化さえ趣となり愛着が生まれる建築

国内外で話題の大型プロジェクトを手掛け、注目を集める気鋭の建築家「永山祐子」氏。 マテリアルへのこだわりや建築におけるサスティナブルへの取り組み、また、IFデザインアワード2023で受賞された作品にまつわる心温まるエピソードなどについても語っていただいた。

った

永山 祐子 | Yuko Nagayama

1975 東京生まれ
1998 昭和女子大学生活科学部生活美学科 卒業
1998 青木淳建築計画事務所 入社
2002 青木淳建築計画事務所 退社
2002 有限会社永山祐子建築設計 設立

五感で感じるマテリアルを適材適所に

秋葉 永山先生は、ご自身の作品に使用する素材の特性や性能についての研究や情報収集などは、どのようになさっているのでしょうか。

永山 そうですね、例えば色々な街に出かけてそこにある建物を見たときなど、使われているこの素材は一体何だろうと興味を惹かれることもありますし、こういう素材があったらいいなと思うときには、それこそ普通にグーグルで検索してみたりします(笑)
あとは、なかなか時間が取れず、頻繁には行けていないですが、建築関連の展示会などで面白いマテリアルに出会ったときには、なるべくそこで情報収集するようにしています。気に入ったマテリアルなどの場合は、リピートして使いたいのでそれらを作っている信頼できるメーカーさんと密に付き合っていくようにしています。そしてプロジェクトごとに少しずつ違うものが欲しいので、オリジナルで製作をお願いしたり、次にそこに手を加えてもらったりと、一度いいお付き合いができたメーカーさんとは長くお付き合いをしています。

秋葉 今、先生が最も注目している素材や、これから使ってみたい建材などはありますか。

永山 最近、リアルな空間に対して仮想空間やバーチャル空間などが注目を集める一方で、リアルな空間にしかない質感などが人々に見直され始めているような気がします。
例えば左官、木材など質感や、温度感のあるものといいますか、マテリアルによって暖かいや冷たい、また音の響き方などの違いがありますので、それらを適材適所に使えるよう、まさに五感で感じるマテリアルの選び方を最近は特に意識しています。そういう意味で以前にも増して、マテリアルのことをより深く知りたいと思うようになりました。

ですから最近は国内外で、そういう特殊なマテリアルを作っている工場などがあれば、なるべく訪れることにしています。その作り方の中から、作っている人たちでさえ気づかない新たな良さをデザイナー側からの視点で気づくこともありますし、インスピレーションをもらいながら考えるということが大切なので、最近は特に工場訪問が増えてきましたね。

マテリアルを決めるまでのプロセスから生まれるストーリーをお客様と共有する

秋葉 素材を確かめるために自ら製作の現場へ足を運ばれる。確か『情熱大陸』の最後のシーンでも山に入って行かれましたね。

永山 さすがに全ての素材についてそうするというわけにもいきませんが、この素材は特に重要だと思うものについては、自分で作っているところに行き、作り手の方と直接話をします。そうするとそれまでの通り一遍の情報では知り得なかった、素材の別の活用法や可能性が見えてきますので、そういうのを上手く使いたいと思います。

『情熱大陸』で私が山に入って行くシーンでは、「何をしていたの?」とよく聞かれるのですが(笑)、実はあれもマテリアルを収集しに行っていました。先日オープンした松坂屋名古屋店ラウンジで使うテーブル天板の中に入れる素材を探しに……。そういうことがとても大事だと思います。
プロジェクトメンバー皆で森に行き、実際に枝を拾ってそれらも素材の中に入れ磨きをかけてもらう、こう使おうとかああ使おうとかを考える、そこにマテリアルを決めるまでのストーリーが生まれるわけですが、そのストーリーをお客様にもとても喜んでいただきました。
例えばこれはうちでデザインしたテーブルなのですが、テラゾーに使わなくなったタイルを入れて磨いてもらいました。テーブルの素地部分や床のベースにもリサイクルガラスを入れることでストーリー性を込められたと思っています。タイルは全てオリジナルで一からデザインしたものを、愛知県多治見で作ったものです。特に最近はこのように、マテリアルの中にもプロジェクトとしてのストーリー性が求められようになり、ちょっと贅沢なので全部が全部というわけにはいきませんが、一からオリジナルで作ることも多くなっています。

このように語り継がれるようなストーリー性があることで、愛着が生まれ大切にしてもらえると、スクラップ&ビルドということにはならず、サスティナブルな空間として長く大事にしてもらえると思うのです。

左:情熱大陸でも登場した山の中でのマテリアル取集
右:収集したマテリアルを使用した松坂屋名古屋店ラウンジ。この施設の内装はすべて手掛けており多治見のタイルなども使用している。


素材の製作現場はクリエーターにとって「宝の山」

秋葉 永山先生の作品を拝見すると、普段素材メーカーさんが意図している使い方を越えた意外性の中から新しい可能性が広がっているようですね。

永山 そうですね、メーカーさんが思っている「良い」という感覚と私たちが思っている「良い」という感覚がもしかしたら少し違っているのかもしれませんね。

例えば、先日(2023年6月)YAMAGIWAさんから私がデザインした照明が販売されたのですが、それは真鍮やアルミで逐次成形といって、特殊な成型方法で特殊なノズルを3次元的に押し当てながら形を作っていくのですが、その形の作り方の特徴で金属が最後、くるっと曲がってしまったのです。これは失敗しましたと持って来られたのですが、私はすごくいいなと思いました。少しだけクルンと曲がる、この曲がる感じが一つ一つ表情が違っており、3次元逐次成形という新しい技術の中に生まれた「手仕事感」が新鮮で、そのまま採用にしました。
今思えば、失敗を生かそうという私たちの考えは、メーカーさんにとっても発想を180度転換するきっかけとなり、そこに何か可能性というか面白さが広がるのを感じます。製作の現場に行くとよく魅力的なものに出会います。たとえ捨ててあるものでさえ私たちにとっては宝物かもしれないのですから(笑)

FUWARI(株式会社YAMAGIWA)

FUWARI(株式会社YAMAGIWA)
シェード製作を担当。逐次成形という特殊な製法により生まれる内側にくるんと巻いた独特のカーブは、1点1点僅かに異なる形となっている。


秋葉 建築や設計における、サスティナブルやエコロジーへの対応はどのように。

永山 最近、廃材利用を積極的に取り組んでいて、先ほどお話しした廃タイルも、普通のタイルをただ入れただけでは、ああいう変わった形状で見えてこないのですが、割れたものを入れているので思わぬ形が見えてきていて(笑)廃材をこんな使い方したら、こんなに美しくなった、その上ストーリー性もある、そういう何か予定していない掛け合わせに出会えた時に、すごく楽しいなと思います。
また、海外ではサスティナブルというキーワードはとても重要であると感じます。最近行ったドイツのIFデザインアワード※の授賞式では、審査でもサスティナビリティは重要な項目であり、そういう考えがしっかりベースにあることが当たり前となっています。その上で美しさ、楽しさがあることが問われるのです。

私は、建築におけるサスティナブルとは何ですかとよく聞かれることがあるのですが、先ほどお話ししたようにやはり愛着を持って、長く大切にされる建物を作れば、すぐに壊されることがなく、一番のサスティナブルだと思っているのです。結局、リユースなどにしても次に何か違った形に変換しようと思うと、余計なパワーがかかってしまうので、そのままキープして大事に使ってもらうことこそ一番のサスティナブルだと思います。素材にはどうしても経年変化はあるので、その経年変化が美しいと思えるような、味や趣として捉えられるような素材を使うことがサスティナブルではないかと思っています。

※IFデザインアワード:ドイツ・ハノーバー工業デザイン協会が毎年主催する、全世界の優れたデザインを選定するデザイン賞。アメリカのIDEA 賞、ドイツのレッドドット・デザイン賞とならぶ世界3 大デザイン賞の一つ。

秋葉 建材を探す際に何を重視して検索しますか。また、検索した製品を採用する決め手はどんなところでしょうか。

永山 毎回、うちのスタッフも検索して探すのですが、検索ワードのセンスをより磨かなくてはと思います。何の言葉を入れるのかを考え、また海外サイトも探すので英語で入れてみるなど、私もネットサーフィンしつつ、意外とアタリを引くって自分で思っているのですが(笑)
私達がマテリアルを選定する時には、まずサンプルを依頼します。例えば200角のピースがサンプルとして送られてきて、サンプルの段階で素敵だなと思っても、実際の大きさ、シチュエーションで使うとイメージが違ったりします。施工例を見たり、今だったらかなり忠実なCGで起こしたりもできるので、最終的に使った時のイメージやスケールを様々な方法でシミュレーションをします。光との組み合わせは特に大切です。昼間に外部で見たり、様々な色温度の照明を当てて夜の状況を確認したりと自分たちで実物で実験しています。事務所は色温度や照度がコントロールできる照明を使っているので実際の照明のシチュエーションに合わせてどこででも実験ができるようにしてあります。マテリアルを選定するための大事なプロセスですので、実験をメーカーさんがサポートしていただけると嬉しいなと思います。

秋葉 素材の使い方で、シミュレーションができるといいですね。

永山  今だったらCGパースで、この素材をここに使い、あの素材を使ったらこんな空間になりますよなどが簡単に着せ替えのようにすぐできますよね。海外のサイトだと家具の色などサイト上でパッて変えたりして、素材の組み合わせも自由自在、そういった工夫をされているのは特に家具メーカーさんですね。クライアントにプレゼンするのにサイトに用意された3D素材をプレゼンパースに入れることができとても便利です。具体的な検討ができます。そういう3D用の素材をどこかに置いておいてもらうだけでもすごく助かります。今3D検討は不可欠になっています。VRによって実際にその空間に入り、歩き回ることができ、以前よりさらに体感的な検討ができるようになりました。

Column
循環のデザインにのせ、サスティナブルを実現

Tokyo Midtown DESIGN TOUCH2022 うみのハンモック

Tokyo Midtown DESIGN TOUCH2022 うみのハンモック

海の波のように見える連なるハンモックとタープの素材は、廃棄された漁網をリサイクル。タープの下で自然環境に意識を巡らせてほしいという想いから生まれた作品。

2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)パナソニックパビリオン「ノモの国」

2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)パナソニックパビリオン「ノモの国」

循環を表すモチーフが集まり、ファサード全体を形成することで「私たちも循環する世界の一部」であることを象徴。サスティナブルとウェルビーイングを表現に取り入れ、素材やエネルギーの循環を肌で感じる建築とすることで来場者の感覚に訴えかけます。

人々が集まり憩える空間を創り、提供できる楽しさを

秋葉 先生が建築家として、未来に向け発信したい、社会にこんな影響を与えたいというものがあればお話しください。

永山 そうですね。先ほどもお話ししたように、今はバーチャル空間でオンラインミーティングなども増えており、それはそれで非常に便利だなと思います。しかし、私達はリアルな空間を作る立場の人間ですので、やはり魅力的なマテリアルや、五感に訴えかけるような空間などを作り、なるべくそこに人が集まり、アクティブに動き回ってもらいたい。社会がそういう未来像になって行ってほしいなと思います。皆が家の中にいて、オンラインで済んでしまうのはやはり寂しいじゃないですか。せっかくなら外に出て、都市の空気や大自然の空気、その場所その場所にある空気を感じてもらい、五感で空間そのものを楽しんでもらいたい。人が外に出るきっかけとなるような建築を作っていけば、そこに散歩に行きたくなったりすると思うのです。

私は以前、群馬県の前橋市でJINS PARKというものを作ったのですが、そのパークにあるお店の方に聞いたエピソードで私がとても好きなお話があります。お店の方によると、あるおばあさんが毎日必ず同じ時間に、コーヒーとパンを買い、同じ席に座るそうです。病院に行く途中立ち寄ってくださるというのが毎日の習慣のようです。そういう場所が作れたというのはすごく嬉しいなと思いました。家では誰ともコミュニケーションを取らないような一人暮らしの方などが気軽に立ち寄れる場所、ただそこに座ってそこに集まる人々を眺めるだけでも言葉を交わさなくてもある種のコミュニケーションが生まれていると思うのです。そのためにはまず来たくなるような魅力的な場所が必要です。その場所を作り出しているのは心地よさを感じるマテリアルであったり、家具であったりだと思います。パンデミック以降、アクティブに人が動くということの大切さを改めて実感しましたので、なおさらそのように感じています。

秋葉 本日は貴重なお時間をいただきまして、本当にありがとうございます。色々と興味深いお話をお伺いできて大変愉しかったです。

JINS PARK 前橋

JINS PARK 前橋
アイウエアブランド JINSのロードサイド店舗の設計。眼鏡だけでなく、美味しいパンやコーヒーを販売したり、地域住民が主催するマルシェやトークイベントを開催したりと、公園の広場のような場所になることを想定している。

Column
東急歌舞伎町タワーの設計では、3Dを活用し全体を確認

東急歌舞伎町タワー

東急歌舞伎町タワー

先日、設計した東急歌舞伎町タワーのようなオーバースケールのものは特に、模型でも部分的に1 分の1 モックアップを見ても想像しきれない部分もあるので、全て3D で立ち上げ、都庁側から、または大久保側から見た光景、そして電車に乗っている時に見える光景など全体の見え方を確認ができるようにしました。マテリアルを選定する段階ではそういう3D 検討やVR 検討を入れるのが主流になってきています。ただ、それはあくまで全体把握の為で、本物のマテリアルの質感を実際の光で見るなどのテストは重要です。

~取材後記~

マテリアル選びの考え方など、想像力や発想にとても感銘を受けました。魅力的な場所を生み出す永山先生のこだわりの凄さと、人を惹きつける魅力も感じました。

取材:秋葉 早紀 建材ナビ広報担当

った

永山 祐子 | Yuko Nagayama

1975 東京都生まれ
1998 昭和女子大学生活科学部生活美学科 卒業
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