- 掲載:2024年05月30日 更新:2024年07月09日
//= $nameTitle ?>【JCD座談会】建築デザインが育むデジタル化との「心地よい共存」
Guest
JCD副理事長、賛助会員
JCD(商業環境デザイン協会)は、商環境デザインに携わるデザイナー・アーキテクト・空間プロデューサーなど幅広いクリエーター達が集い、人々のライフスタイルの向上や、文化育成などに尽力する組織です。
JCD(商業環境デザイン協会)
東京都品川区東五反田5-25-19
東京デザインセンター
03-6277-4813
株式会社テッドアソシエイツ代表取締役
株式会社乃村工藝社、A.N.D.代表
松下産業株式会社代表取締役社長
松下産業株式会社取締役副社長
昨今の建築デザイン業界の「デジタル化」について
秋葉 本日は、建築デザイン業界における昨今の「デジタル化&グローバル化」潮流への対応について、JCD 会員の皆さまからお話しを伺いたいと思います。
小坂
僕はJCD の副理事長を務めているのですが、同時に空間デザイナーとして、また「乃村工藝社」の取り組みとして話をさせていただきます。
デジタル化という観点から言えば、僕はアナログ世代ですけれど(笑)、乃村として最も力を入れているのはやはりBIM です。建築事務所として必須なシステムだとは思っています。BIM への対応は会社の命題として一丸となり取り組んでいるところです。インテリア、建築、設備、設計施工など、各部門での設計に携わる人員は相当数居ます。各自が会社の中で使えるアプリを共有し、BIM に対応しています。
※BIM:ビルディング・インフォメーション・モデリングの略。建築の設計、施工から維持管理までのあらゆる工程で情報活用を行うためのソリューション。
永井私はJCD という立場でいろいろご説明させていただきたいのですが、JCD では、デジタル化とグローバル化をかなり一体化させて既に進めております。
JCD は商業デザインという括りの団体ですので、第一にネットワーク作りを目標に、次に会員の管理や情報提供に対処しなければなりません。また、協会のホームページの更新や運営する各「デザイン賞」「日本空間デザイン賞」「プロダクトオブザイヤー」といったアワードの集計などは、かなりデジタル化対応が進んでいると思います。
但し、今でも高齢の会員の方などは、デジタルよりもFAX で、という方もいらっしゃるのが現状です。個人的に言いますと、私の会社では38年くらい前からMAC を導入し、バーチャルショップにトライするなどしていましたので、かなり早くからデジタル化に取り組んでいたことになりますね。
当時のオフィスコンピューターでは難しかった演算スピードのアップをMAC を繋げることで、多くのプレゼンテーションを作成可能とし、その結果90%の確率でコンペに勝利していましたから。MACがなかったら実現しなかったことですが、スタッフの多くが徹夜するなどコストを考えると採算が合わなかったかもしれません。
富田我々の場合は、本当にアナログなところがありますね。特にコロナ禍にはショールームへの来客も少なくなり、設計の方々とも会えなくなるなど、かなり苦戦していました。そこでデジタル化の一環としてメルマガ配信やバーチャルショールームなどを制作し、スタートしているのですが、そこでひしひしと感じるのは、我々の商品の価値がバーチャルでは中々伝えきれないというジレンマです。
オリジナルの壁紙なども含め、扱っている商品の質感などは画面では分かっていただけないですし、従ってその価格も納得していただけるかどうか不安になります。なにしろ日本ではスタンダードのビニールクロスが平米1,000 円だったりしますから(笑)、対面で触って納得していただくという時間が必要になるのですが、それができないことは悩みですね。
永井 そうです、特にテクスチャーはやはり直接触って確認したいですよね
富田 はい、触って惚れ込むということも多いですし「これはどうやって作られている」というそのストーリーをまるごと理解していただき、価格も納得してもらわないと、なかなか採用していただけないことが多いので。やはり作り手と使い手のコミュニケーションをよく取り、デジタルも使いつつ、コロナも落ち着いた今は、来て見ていただくという新たなステージに入って来たと思います。
永井 デジタルはあくまでガイドでなきゃいけない。要は、多くのものからチョイスするための一つの手段として使う。ただしチョイスした中で、我々が実際に見て触って確認して、その背景のヒストリーを見ながら選定するということをしない限り、やはり自分たちの満足した良いものは作ることができないというふうに思いますね。
小坂 反面、世の中にはものすごい素材があり、それを検索して候補の素材をふるいにかけるためにはデジタルが必要だと思います。
永井 さきほどデザインアワードの話をしましたけど、投票する、応募するなどはデジタルを使うわけですが、やはり2次3次の審査の中では、審査員が集まって討論する、ディスカッションする、それはデジタルではできない非常に重要なポイントですね。そこら辺を割愛すると、デジタル化は進むけど使えないねとなってしまうのではと思います。
あくまでデジタルは我々人間が便利に、あとは時間を節約するために使う道具として考えていないと逆にそこにどっぷりハマって判断ができなくなるとか、情報過多でパニックになるとか、そういうことが起きると思いますよ。
小坂 CGもそうですし、動画もそうですが、デジタルは徹底的に作りこめますから、今の若い人たちは、CG通りとか動画通りというと納得します。僕らはCGより動画よりいいものを作っているという自負があるから、リアルの感動みたいなものは現場に行くともっとあり、素材の肌触りや匂いもある。 それに比べ、無味無臭のデジタルツールが表現した通りというのは結構、納得がいかないかな……(笑)。
永井一番がっかりする結果になるかもしれませんね。
小坂今の若い世代の人たちは、シミュレーション通りできたと安心し易いけど、そうすると実はリアルな空間が必要なくなってきてしまう。 リアルはいつも感動する、研ぎ澄ましているはずなのにと、その辺はお年寄り二人はもやもやしている部分もある……(笑)。
海外の新作アワードの作品を審査するときなど、どうみてもそれがリアルの写真じゃなくてCGだったりした時に、審査を躊躇することがあるのですが、実はそれすらも古いという考えの次世代の人がいるくらいですから。
永井CG通りだねと言われると、「あぁ、CGのとこで我々の感覚は終わってたのだな」って思ってしまう。それを「CGより全然いいね、カッコいいね」と言われるのがやっぱり我々の喜びであるわけです。
やはりCGは温かくない、ハートがこもっていない、本物のリアルな環境からくるパワーや、快適な感じなどはCGなどでは作れませんからね。
小坂VRでは結構、空間を表現でき、そのときに触った感じ、匂いや音など、今は相当研究されているのですが、やはりまだリアルを超えられていませんよね。
秋葉 百田さんの会社ではメーカーとしてどのように取り組まれていますか。
百田会社では、まずセレクトの段階で石見本サンプルを提出したりすることがありますが、工場に入荷した材料をすべてスキャナーで撮り、第一段階のセレクトの時にスピーディーにできるように設備投資しております。簡単に言いますと、コピー機みたいなもので、石を大型スキャナーで撮り、在庫管理をするという取り組みを、やっています。石屋は本当にアナログ業界なんですよね(笑)。
石材というのは何万年、何百万年という長期間にわたり自然が作り上げた柄とかデザインというのが魅力。1枚1枚表情が違うので、まずそれをなるべくリアルにお伝えして行きたいですね。とにかくその質感とか肌感とかというのを一番大切にお届けしたくて、「STONES」という名前のショールームを4年ほど前から始めて4箇所作りました。
本来だったら、やはり現物を見ていただくのが一番ありがたい話ですけれども、時代も変わって来ているので、石材の魅力をもっと情報発信をできるように頑張って行きたいなと思っております。
永井すごいですね、以前から比べるとスキャニング技術は驚くほど進化していますよね。建材でも木目のシートなど本物と見間違えるくらいリアルになって来ましたね、良い、悪いは別として……。
小坂 デザイン業務では、当然パソコンを使って作業し、ツールとしてのデジタルは皆さん使いこなしていますが、生まれた時からデジタルという今の若い世代と、感覚が違う僕らは、まだまだ根の部分でリアルの方がいいと思いたい。
例えばアニメ映画では、実際動いている人間の身体の動きをスキャニングしてデジタル処理によるモーションキャプチャーとして繊細な動きの動画を実現している。
これら、エンターテイメントの世界は、僕らのパソコンの世界とは違い、やがてどんどんバーチャルとリアルの境界が無くなり、見る人をわくわくさせ、虜にします。
それでは、僕らもそこを目指すかというと、空間デザイン業界自体がそこまでお金もパワーもかけられないので、それは違います。映画も音楽もクリエイティブの世界はビジネスの形もどんどん変化して行きますが、僕らの業界はエンターテイメント業界とは異なり、リアルな空間の良さ、肌触り、決して派手ではない良い意味での地味さ、渋さも必要なので、むしろバーチャルでは表現しづらい世界であり、これらを上手く住み分けることが大事かなと思います。
永井 そういう意味ではSKETCHUPというソフトがありますが、図面で3Dデータを簡単に作り、お客様との打ち合わせでも家具などを目の前で簡単に動かせるので便利です。やはり、住み分けをしっかりして便利に使うのがいいですね。でも、そのうちAIに「あなたの今日のスケジュールはこうです」などと決められても嫌ですけどね(笑)。
市場のグローバル化について
秋葉 ありがとうございます。それでは、デジタル化ともリンクする部分もある市場のグローバル化への展望についてお伺いしたいと思います。
富田我々が得意としてきた壁紙でいうと、日本のマーケットの壁紙事情というものが、海外と全く異なっていて、国内市場では99%がビニールクロス、その内の7割が量産品という世界の中で、もの作り自体が難しくなっています。
インクを沢山使って手の込んだものや立体感があり重量のあるものなどは、内装制限にかかり日本では販売できませんが、海外では壁装材として販売できるという状況です。そんな中で今後、日本が世界に誇れる壁紙を作る技術を保持する取り組みをして行かないと、日本にとっての損失になるのではと危惧しています。それには、手をかけて作ったものを国内で使っていただきながら、それを工芸ではなく一つの確立した産業として育てないと魅力的な仕事として若い後継者が増えて行かないと思いますね。
小坂日本では消防法も厚みや重さに厳しいですからね。
永井うちは今ホテルのプロジェクトに入っていますが、重量制限があるので全部シートにしなくてはいけない……。できれば本物が使いたいですよ
富田当社は以前から世界各国のトップメーカーとタイアップを続けていて、輸入経験も長いので、無理を聞いてもらえるような海外とのコネクションがあります。こういう繋がりは将来の為にも大事にしたいです。
永井グローバル化という話をする中で、今やマーケットの中心はデザインも含めて、「世界」ですよ。やはりもっともっと世界マーケットに向けて日本の素晴らしい建材を積極的に売り込んでいく必要があります。但し、日本のメーカーの問題は色や柄のバリエーションが少ない、売れるものしか作らないから。それに比べイタリアやアメリカのメーカーなどは、色やテクスチャーのバリエーションを驚くほど膨大に用意しています。それはメーカーとしてのプライドであり、自社の製品が世界で消費される可能性に賭けているからです。
百田グローバル化でやってみたことは「国産石」を海外に売り込もうと思い、中国のマーケットに持って行ったのですが、気に入ってもらえたものの、プロジェクトが大き過ぎて産出量が間に合わず断念したことがあります。
今後は国産石を、外装材として大量に販売するというより、家具などの価値あるものに加工して海外に持って行くなどを考えています。そういう情報発信もやって行きたいですね。
小坂日本にはいい石がありますよね。日本人のデザイナーにまず日本の素材の良さをもう一回経験させなきゃいけない。あとは海外のデザイナーさんにPRするとか。
永井知らないから使わないというケースがすごく多い。我々でも「なんだよ、こんなのがあったのか、この年になって知らない石があったなんて……(笑)」ということもよくあります。
今日みたいな話はすごく大事で、やはり我々日々デザインをして、そこで問題点も抱えている、困っているところもある。メーカーさんはメーカーさんでそれなりに困っていることがあって、それらを合体させたときに、「ああ、なるほどね」という結論が出るかもしれないし、「じゃあ、ちょっと大変そうだけどやってみようかな」ということもあるかもしれないし、こういうネットワークというかコミュニケーション、これはすごく大事だと思いますね。ウェブ上でもいいけど、こうしてフェイスtoフェイスで血の通った者同士が話すというのはすごく感じるものがあります。
小坂日本において、ホテルを新たに設計する外国のデザイナーは、その土地の記憶みたいなところからストーリーを紐解いています。ホテルブランドのデザインマニュアルは作るなと、ずっと言われて来ました。その土地の歴史イコールその土地の素材、風土を一生懸命勉強して行くことに、永続的な新しい表現の可能性があるからだと思います。
永井JCD でもグローバル化の一環で「イーストギャザリング」という、香港、台湾などアジアのインテリアデザイナーと建築家たちの間でネットワークを作り、若い方達のプレゼンテーションなどの交流を、年1回くらいのペースでやっています。
百田今回はお二人に、日本の石の良さを海外に伝えていくため、日本の石は海外にとって魅力を感じるのか、どのように思われているのかなどについて、ぜひアドバイスをお伺いしたいのですが。
小坂 僕は「STONES」を見て、素晴らしいと思いました。あんなに小さな店舗で石の可能性を発信されている、新しく素晴らしい拠点を作られていますね。
百田これは、夢みたいな話なのですが、「STONES ニューヨーク」を出してみたいなと、そこで日本の国産の石が展示できるようになれば、いいかなと思っています。
永井いいですね、全然、夢の話ではないと思いますよ。天然素材など、本当に日本の素材は今がすごいチャンスです。その時代が求めている背景と我々が作ってきたものがすごくマッチしています。サスティナブルが主流の今、どこに出しても最強だと思います。
百田僕らの石の業界で言えば、墓石においては、庵治石とか大島石とか四国の方の産地で聞いたのですが、均一でないと駄目ということで、採掘場でも必要以上に量を取り、残りは捨ててしまうので、本当にもったいないと思います。
富田ずっと興味深いお話を伺って、我々はどちらかというと今までやり切って来たという思いはあるのですが、これからやって来る若い人の時代に、少し不安があります。日本の建築デザインクリエーターの方々が日本の素材への知識や研究が足りないのではないかと……。そこへ海外の方々が日本の素材を勉強し、評価して使っていただいているように思います。次の時代のクリエーターの方々についてはいかがでしょうか。
永井むしろ、今の若者達のほうが危機感を持ってるかもしれないですよ。我々の時代は、価格は少し高いけどそれなりに石も木も豊富にありましたが、今の若いクリエーターはそうもいかないので、他の様々な方法にチャレンジして研究して、新しいものを創出しようとしている。そういう工夫は素晴らしいと思うし、海外からも評価されています。やはり、今はデジタル化で情報もすぐ共有できる環境が整っていますから、一人でやるのではなく、色々な人たちがコラボレーションすることが大事ですね。
小坂肝心なのは僕らがやっている仕事が、次世代に刺激を与え、デザイナーの人がどんどん増えてくることですね。
永井未来のデザイナー達に、この仕事が単に辛くて大変な仕事ではなく、夢を実現できるすごいことなのだと伝えて行く必要があります。また、それに見合う対価もきちんとあり、サクセスストーリーを体感できる仕事なのだとね。
富田商品開発においては職人さん達に、我々のアイデアや作りたいものをあれこれ試作してもらったりしながら進めています。
何か、やはり世界の人たちとお付き合いしていると日本での価値観と少し違う部分を感じます。商品の価値はそれにまつわるストーリーなど様々な要素を理解した上で安い、高いを判断するものだと思います。安いけれどすぐ駄目になるものより、高くても長く使える、使ううちにだんだん深い味わいが出て来るものの方に価値を感じるという判断をしてもらえれば良いと思います。
百田うちの会社で言えば、石という素材をもって、永久的に形が残る作品という喜びを、社員に感じて欲しいなと思っています。
永井物も人も一緒で、時間とともに、時間を吸収してだんだん良くなって来ます。建物でも、作り手は常に100年経過しても益々味が出て良くなるという確信を持ちながら作っているのですが、昨今はインテリアも含め、建築とデザインのサイクルが短くなって行く傾向があります。そこはやはり文化伝統の継承ということを意識し、構築して行かなければならないのでは、と思います。
小坂やはり僕は若い世代に、様々な産業を背負っているこの空間デザインという仕事が魅力的で誇りに思える職種だと実感してもらいたいです。そして、日本の素晴らしい技術と建材、それをうまく武器にして、世界に羽ばたいてほしいですね。
秋葉 皆さま本日は本当に有難うございました。
~取材後記~
第一線でご活躍されている皆さまから、未来に向けてこの場でしか聞けない貴重なお話を伺うことができました。デジタル化やグローバル化などへの取り組みから生まれる出会いや感動を今後どのように伝えて行くかなどを改めて考えさせられました。
取材:秋葉 早紀 建材ナビ広報担当
JCD(日本商環境デザイン協会) インタビュー&レポート
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JCD副理事長、賛助会員
JCD(商業環境デザイン協会)は、商環境デザインに携わるデザイナー・アーキテクト・空間プロデューサーなど幅広いクリエーター達が集い、人々のライフスタイルの向上や、文化育成などに尽力する組織です。
JCD(商業環境デザイン協会)
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