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  • 掲載:2024年08月26日 更新:2024年08月28日

世の中の当たり前、こうあるべき、を疑う事から始める

SUPPOSE DESIGN OFFICE 株式会社 吉田 愛
故郷広島でデザインを学び、卒業後は建築デザイン事務所にて修行を積んだ後、2014 年にSUPPOSE DESIGN OFFICE を設立、共同主宰を務める。
建築デザイナー、吉田さんのモットーは「どんな状況においても本質に立ち返り、見失わないように考え続ける、表現するために行動し続ける」。
常に全方位からの視点で建築デザインを捉え、人々の快適なライフスタイルへの提案を模索し続ける吉田さんに、その情熱の原点を探るべくお話を伺いました。

Guest

吉田 愛 | Yoshida Ai

1974 広島県生まれ
2001 Suppose design office
2014 SUPPOSE DESIGN OFFICE Co., Ltd. 設立 共同主宰
2017 絶景不動産株式会社設立 共同主宰
2017 社食堂開設
2018 BIRD BATH&KIOS 開設
2021 etc. inc. 設立

SUPPOSE DESIGN OFFICE 株式会社
東京都渋谷区大山町18-23 B1F
(東京オフィス)
03-5738-8450


新しいものを生み出し続ける楽しさが仕事のパワーに

SUPPOSE DESIGN OFFICE 株式会社 吉田 愛

秋葉 吉田先生は、仕事の上でチームワークの良さをとても大切にされていると伺っていますが、社名にSUPPOSE と付けられたのは何か意味があるのですか。

吉田  あまり深く考えず、辞書を見て決めたのですが、そのころグラフィックデザイナーの友達などが一緒に設計事務所というより、デザインチームを作ろうという話になりまして、SUPPOSE と名付けました。SUPPOSE にはイマジネーションとはまた違うニュアンスで「仮定する」とか「想像する」という意味合いが強いという事で付けたのですが、結果的に自分達らしい、良い名前だなという事になりました。

秋葉 デザインチームの立ち上げの時につけられたのですね。先生が、設計やデザインをする際に一番大切に思われていること、軸とされていることは何かお聞かせください。

吉田  大切にしている事は沢山ありますので、一番と言われると難しいのですが、何でしょう……。まずは当たり前という事を疑って、一つ前から考えて行くという事は常に思っています。例えばオフィスと食堂を作るとなったときに、普通だったら分けて作ろうと考えるのですが、それを一つ前から考えると、別に分けて作る必要はないのでは、ということになります。

皆さんがカフェなどで仕事をするというなら、オフィスと一緒でもよいのではないか、快適に仕事ができるのではないかという考えに至りました。当たり前のことを一度疑うことからスタートするとそういう結果になるという事ですね。そういうことを前提として常に持つようにしています。

秋葉 当たり前のことを一度疑って考えるという視点が大切なのですね。

吉田  そうなんです。何かのプロフェッショナルになり過ぎると、これは当たり前、こうあるべきとなってしまいますよね。そこは逆に素人の視点と言いますか、何も知らないという気持ちで考えると、自分が行きたい場所は本当は、ドキッとするようなものがある場所や、むしろ違和感があるような今まで見たことがないような場所に行きたいのだということになります。それでは、自分自身が素人の視点で行ってみたいと思う場所を作って行こうと……。

そうして、新しいものを生み出し続けることが自分たちも、仕事として飽きずにやり続けられるという事に繋がっているのではないかと思います。

条件が悪いほど、クリエイティビティが試される

SUPPOSE DESIGN OFFICE 株式会社 吉田 愛

秋葉 設計をする上で、お客様の求めるものと自分がやりたいものが違うなと思ってやりにくいなどはありますか。

吉田 基本的に、どんな悪い条件でも別にいいのですが、逆にお客様から全く期待されていないような仕事はやらないと決めています。殆ど全てが決まっているという仕事であれば、私たちがやる意味はあまりないと思います。そうではなく、お客様が、あんなことやこんなことをやりたいのだけれど、あなた達のフィルターを通すとどんな風になるの、と期待を寄せていただけるような仕事でしたら、自分たちがやる意味があり、そこに力を発揮したいと思っていますから。

条件の悪さが逆に私たちにとっては面白さに変わるところであり、何でもいいから好きにやってと言われた方が難しいと思います。それは、私たちが若い頃から学歴もない、何の実績もないという基本的に条件が悪いという事をベースにスタートしているからかもしれませんね。

例えば、扱う土地が斜面でどうしようもない上に、予算が全然ないなど、条件が悪い上に予算も厳しいという中で、いったい何ができるのか、また斜面だからこそ、それが逆に魅力になる事があるのではないか、など、常に条件の悪さを良さに換えて行く逆転の発想をしてきました。どのプロジェクトでも、個性を見つけ出し面白くするくせがついています。

特に住宅などの場合、私たちに初めて依頼するお客様は、ご自分のイメージはあるものの具体的に伝えられないことも多々あります。例えば中庭が欲しいという希望があった場合、本当に中庭が欲しいのか、ただプライバシーが守られた部分が欲しいのか、そこで何を本当はしたいのか、大体中庭という言葉も本当にあっているのかどうか、そこら辺もヒアリングして行かなければなりません。そうすると本当に欲しいものは実は中庭ではなく、別のものだったりするということさえありますから。そういうロジックを考えて提案して行き、結果お客様に喜んでいただけるというのが、とても楽しいなと思えるのです。

Column
小さな公共性について考え、尾道らしさを再編集した
「ONOMICHI U2」

1943 年建設の船荷の倉庫だった県営上屋2 号倉庫をコンバージョン。古い躯体をそのまま残し、建物全体を「街」と見立て、尾道の建物と路地空間の関係を倉庫内につくり出す。ホテル、サイクルショップ、イベントスペース、バー、レストラン、ベーカリー、コーヒーショップ、食品やアパレルなどの物販店を併設している。


秋葉  特に印象に残っている案件などはありますか。

吉田 つい先日、広島の尾道という街づくりの一環としてのプロジェクトが10周年を迎えました。古い倉庫を改装し、中にショップ、カフェ、レストランを併設したホテルを新築するという案件でした。一般的にはこういう場合、建築家、インテリアデザイナー、グラフィックデザイナーなどが世の中では分担して扱うプロジェクトなのですが、私の場合は、例えばレストランのメニューやサインなどの目に入る小物から、使用するファブリックやルームキーに至る小さなものまでが工夫して作られている空間を作りたいという思いがあり、トータルでディレクションを担当しました。

その倉庫は戦時中に作られたもので、私たちは基本的にあまり手を加えないようにして、古いものと新しいものが良いコントラストになるように意識し、懐かしい存在でありながら、その中に新しいコンテンツを採り入れ、新しいデザインが追加されて、年配の方も若い方も楽しめる空間を目指しました。

何しろ築70年近い古い建物を生かして作っているので、10年経っても全然古びた印象がなかったことが我ながら衝撃でした(笑)。80年前の古い鉄扉もそのまま残してあり、鉄扉のサビさえ年月を経てその魅力を増しているところなど、尾道という街に重なるものがあり、リノベーションの面白さを実感できました。

形だけでなく、仕組みや体験までデザインの範疇に

SUPPOSE DESIGN OFFICE 株式会社 吉田 愛

秋葉 オフィスと社員食堂を一体化した「社食堂」のコンセプトを伺いたいのですが。

吉田 社食堂を作ったのはもう7年くらい前になるのですが、私たちの若い頃はもうゆっくり食事をとる時間もないほど忙しく働いており、パソコン画面見ながらコンビニ弁当を食べているといった日々でした。でも年齢を重ねてくると、やはり食が自分の健康を作る、食べたものが身体を作る、という考えからスタッフの健康のために食堂を作ることにし、しかも設計事務所という閉鎖的な感じで行きずらい感じがするところをもっとオープンにして、自分たち以外の外部の人たちにも開放しようという事になりました。そうすれば一般の人々にも、仕事の依頼に来るだけでなく、デザインや設計という分野をもっと身近に感じる体験をしていただくきっかけにもなりますからね。

社員食堂はオフィスと別にあるのが普通ですが、ここはオフィスの真ん中にキッチンがあります。分けないことで、通常だと食堂はお昼と夜のそれぞれ1時間くらいしか使わないと思うのですが、食堂を使わないときはここが仕事場になるという、使う側の使い方によって用途を変えて行くことができます。

あくまで定義しないという考え方で発想、オフィスでご飯を食べる、オフィスの真ん中にお母さんがいる(笑)オフィスにお母さんが居たら楽しいですよね、発想を変えることで普通とは違う形になったという結果がこの社食堂だと思います。デザインするということは、単にデザインや形を作るというふうに捉えられがちですが、その仕組みや体験をデザインすることの方が私たちには興味があり、そうしたことを常に考えて仕事をしています。

秋葉  そのようなユニークなアイデアはどのように培われたのですか。

吉田 北海道ボールパーク(球場)に併設した「七つ星横丁」のときも、ただの横丁ではなく、そこでしか体験できない工夫と演出で、よりリアルな球場体験を感じてもらうようなデザインに仕上げています。また、千駄ヶ谷の公衆トイレの時には、従来のトイレの持つ汚いというイメージを払拭し、どうデザインしたら常にきれいに気持ちよく使えるかという視点から取り組みました。

常にここをこうしたら良いのではという工夫や提案をするのが設計者やデザイナーの役目なのではと思っていますから。言ってみれば「スーパーおせっかい」の感覚ですね(笑)。

常に規格に捉われない、違う視点で物事を見る目を養い、それを楽しむことが大切だと思います。とにかく皆さんに、私たちと一緒に仕事をすると、面白いこと、楽しいことがありますよ、と伝えたいですね(笑)。

設計の仕事は机に向かっている時だけが仕事ではないと思っていて、24時間が仕事か、あるいは本当は24時間が遊びでは(笑)と考えることもあります。

例えば出張にもよく行くのですが、出張も仕事と捉えずに、ある意味旅に出かけるという感覚で捉えると楽しくなります。出張で誰かと出会えたり、美味しいものをいただいたり、そこで出会った人々や食材までが、やがて自然と仕事に繋がって行くという感覚でしょうか。

社食堂(社員+ 社会の食堂)
SUPPOSE の東京事務所を社内だけではなく社会に開放。スタッフが働くオフィススペースのすぐ横に、仕切り無しで一般の方も食事ができる環境を提供。デザインや設計を身近に感じながら、美味しいごはんや、コーヒー、お酒が楽しめる食堂となっている。

秋葉 建材を探す際に利用する検索サイトへのご要望などはありますか。

吉田 この素材は何だろうと思ったものを写真に撮って、すぐ検索できるようなサイトがあればいいなと思うことがあります。大抵の素材やサンプルは小さなサイズで来るので、タイルなどの柄やマテリアルが拡大された大きな面でリアルに見たいというのがありますし、同時に施工例などでも分かり易く比較できれば、すぐ設計に使えるので、そういう紹介の仕方ができるサイトがあればいいなと思います。

秋葉 「私たちと一緒に仕事をすると楽しいですよ」と笑顔でおっしゃる吉田先生の言葉には、仕事への取組み方や意気込み、情熱などの全てが込められているようで、深く心に沁みました。本日はお忙しい中、素敵なお話をお聞かせいただき、誠に有難うございました。

七つ星横丁(横丁×野球場)
HOKKAIDOBALLPARK バックネット裏に位置する飲食エリア。 「熱狂や一体感」が味わえる場にすべく横丁エリア全体を球場に見立て、マウンドを中心に一塁から二塁へと結ぶ路地のように構成。 立ち飲みや路地飲みが気軽にできる環境を設計することで、隣の観客と一緒に盛り上がるといったスタジアムならではの臨場感溢れる食体験をつくり出している。

[取材]

秋葉 早紀 建材ナビ広報担当 二級建築士
業界に携わる方々の思いや建築の面白さを伝えるきっかけづくりをしています。インタビューを通して建築やデザインを、より身近なものに感じてもらえるようにしたいです。






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03-5738-8450

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