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掲載：2024年09月24日　更新：2024年09月24日

「日事連建築賞」の令和6年度受賞者・作品が決定しました。

令和６年度は、１５７点の作品が各都道府県建築士事務所協会（単位会）へ応募され、単位会での第１次審査を経て、日事連へ５６点の応募がなされました。日事連建築賞選考委員会（委員長：松村秀一）で第２次審査を実施した結果、１８の受賞者および作品を決定しましたのでお知らせ申し上げます。

参照：日事連建築賞　令和６年度受賞者・作品

日事連建築賞とは？
日事連では毎年すぐれた建築作品を設計した建築士事務所を表彰することにより、建築士事務所の資質の向上に資することを目的に「日事連建築賞」の表彰を実施しており、今年度で40回目を迎えました。

最優秀賞にあたる国土交通大臣賞には、『徳島県新浜町団地県営住宅2号棟』（一般建築部門）を設計した「（有）内野設計／島津臣志建築設計事務所／（株）カワグチテイ建築計画／（株）長谷川大輔構造計画」が、国土交通大臣賞に次ぐ日事連会長賞には、『tobe』（小規模建築部門）を設計した「kufu」の受賞が決定しました。

日事連建築賞

国土交通大臣賞（一般建築部門）

徳島県新浜町団地県営住宅2号棟

（有）内野設計／島津臣志建築設計事務所／（株）カワグチテイ建築計画／（株）長谷川大輔構造計画

徳島県新浜町団地県営住宅2号棟_外観

徳島県新浜町団地県営住宅2号棟_内観

＜審査講評＞
今年は木造の応募作品が多かった。木材の炭素固定効果への期待、山林の持続的な経営のための木材活用促進政策、環境意識の高まりの中での世界的な木造建築ブーム。背景にはそうした事柄がある訳だが、各地での取組み事例が増え、木造経験者の層が厚くなってきていることにも注目したい。ただ、期待される効果が目に見える程度になるには、普及の程度がまだまだという段階ではある。こうした状況の中、本作は、広く取り組みやすい構法によってあらわし木造中規模建築を実現している点、構造躯体及び内外装仕上げに木材を効果的に使うことで従来のRC造公営住宅にない柔らかさや親しみやすさを獲得している点、また南海トラフ地震への備えとしての徳島県と林業団体の取組み「木材のローリングストック」に参加している点等で、木造建築の普及に向けた優れたモデルになり得ている。先ず、この点が高く評価できる。そして、木造であるか否かにかかわらず、町に対して開かれた公営住宅のあり方を示している点、配管等のための縦シャフトも含めたゆとりのある共用空間を実現している点等、現代の公営住宅の設計例としても優れたものとして評価できる。

建設地：徳島県徳島市
用　途：共同住宅
構　造：木造、一部RC造
階　数：地上4階
面　積：敷地面積 3,327.60㎡／建築面積 635.62㎡／延面積 1,727.31㎡

日事連会長賞（小規模建築部門）

tobe

kufu

tobe_外観

tobe_内観

＜審査講評＞
建築には、写真で見て想像していたのと実際とがあまり変わらないものと、かなり違ってしまうものとがある。そして、後者の中には実物が写真ほどではなかったというものと、写真より実物がずっと良かったというものがある。本作は後者の典型である。現地を訪れたすべての選考委員が異口同音に「実物はずっと良かった」と感想を語られた。確かに実際に行ってみないとわからない不思議な建築である。施主の祖母の住む古びた3階建てアパート建築と公道の間に、高さや窓の位置の異なる合計8個の分棟形式の平屋建て住宅とギャラリーが、祖母の住むアパートの1階部分を囲む或いは包むように配された。すべての部屋は祖母の住まいと向かい合い、緩やかな曲線の廊下で繋がれている。その廊下のことを設計者自身は「光も景色も透(とお)す薄いカーテン一枚の距離感」と言っているが、まさに言い得て妙の心地よいスケールの場が形成されている。他方、町に対しては、外装の煉瓦タイルが、分棟というスケール感の操作とともに、しっくりと馴染む効果をもたらしている。近い将来のアパートの建替えプランも立てており、住み継ぎの精神が宿る優しさに満ちた建築である。

建設地：広島県広島市
用　途：一戸建ての住宅
構　造： WRC造
階　数：地上1階
面　積：敷地面積 189.52㎡／建築面積 130.58㎡／延面積 128.19㎡

優秀賞（一般建築部門）

熊本地震震災ミュージアム KIOKU

（株）オープラスエイチ一級建築士事務所／（株）産紘設計

熊本地震震災ミュージアム KIOKU_外観

熊本地震震災ミュージアム KIOKU_内観

＜審査講評＞
雄大な阿蘇の風景の中にあり、その山並みに呼応するように緩く曲がりながら広がる屋根の造形が特徴的な建築である。木造の柱梁とRCの壁とで支えられたこの柔らかな屋根の下の内部空間は、ガラスのファサードによって大きな阿蘇の風景を招き入れ開放的である。デジタル・ファブリケーションにより造形された屋根は、均一でないスパン、場所ごとに異なる接合角度、幾色ものタイルを組み合わせた仕上げ等、周到な工夫を施されながらも、敢えてそれらを強調することなく、自然景観の中に身を置いているような心地よさを感じさせてくれる。

建設地：熊本県南阿蘇村
用　途：博物館
構　造：木造、RC造、一部S造
階　数：地上1階
面　積：敷地面積 27,027.99㎡／建築面積 1,578.87㎡／延面積 1,210.29㎡

東京都市大学７号館

シーラカンスケイアンドエイチ（株）一級建築士事務所／（株）東急設計コンサルタント／東急建設（株）一級建築士事務所

東京都市大学７号館_外観

東京都市大学７号館_内観

＜審査講評＞
全体は大きな直方体の単純な箱である。にもかかわらず、様々な採光の工夫、きめ細かで周到な内装仕上げや設備のレイアウト、そして、大ホールを含む教室群を配した中央部とその周りを取り囲み色々に利用される回廊状空間という明解な空間の性格分けとによって、異なる雰囲気の多様な場がそこここに形成されている。見事である。色々な目的空間が盛り込まれているのに圧迫感も閉塞感もない。これだけ開放的なガラス面を持つのにZEB-Readyを取得している。これもまた見事である。

建設地：東京都世田谷区
用　途：学校（大学）
構　造： S造
階　数：地上4階
面　積：敷地面積 23,290.86㎡／建築面積 2,875.52㎡／延面積 10,105.03㎡

まきのさんの道の駅・佐川

（株）若竹まちづくり研究所／（株）STUDIO YY／（有）ワークステーション

まきのさんの道の駅・佐川_外観

まきのさんの道の駅・佐川_内観

＜審査講評＞
山に囲まれた自然の中に置かれた木造の大屋根、ガラスに囲まれた開放的な室内空間という構成は、先の熊本地震震災ミュージアムと同じだが、この二つの建築の小屋組の扱いは大きく異なる。本作は二つの切妻屋根を緩やかに撓(たわ)んだ屋根が繋ぐという構成になっており、それぞれに無柱空間を実現するため、サスペントラス構造、張弦梁構造、カステン構造の小屋組を採用し、その三種の小屋組構造をダイナミックに見せるデザインとしている。構造表現を敢えて控え目にした熊本の例とは対照的である。木造建築の一般化の表れとして興味深い。

建設地：高知県佐川町
用　途：道の駅
構　造：木造
階　数：地上1階
面　積：敷地面積 9,940.28㎡／建築面積 2,011.67㎡／延面積 1,841.95㎡

優秀賞（小規模建築部門）

国東市鶴川商店街周辺拠点施設

下村正樹建築設計事務所／（株）塩塚隆生アトリエ

国東市鶴川商店街周辺拠点施設-_外観

国東市鶴川商店街周辺拠点施設-_内観

＜審査講評＞
築120年の古民家の改修棟と2700㎜グリッドに沿って計画された平屋建ての新築棟。この二つの新旧棟を20m以上の長さのある木造の歩廊で結ぶという構成はユニークで伸びやかだ。同じ施設内での、古民家の野太い部材構成と105角の県産杉を柱に用いた新築棟の細い部材構成とのコントラストも面白い。新築部分では、将来の解体・リユースを想定した接合方法で、2700㎜×2700㎜の軸組空間が飾ることなく繰り返されており、その使い方は地域の人々に委ねられている。

建設地：大分県国東市
用　途：店舗
構　造：木造
階　数：地上1階
面　積：敷地面積 3,671.91㎡／建築面積 251.02㎡（新築棟）、352.01㎡（改修棟）／延面積 177.66㎡（新築棟）、478.14㎡（改修棟）

睦モクヨンビル

（有）睦設計コンサルタント

睦モクヨンビル_外観

睦モクヨンビル_内観

＜審査講評＞
目に見える部分が殆ど木のあらわし。その4層の吹き抜けを持つ内部空間の迫力はなかなかのものである。既に取壊されたようだが、かつて日本建築学会賞を受賞した高須賀晋氏設計の生闘学舎の枕木を再利用した校倉構法を目撃した時の衝撃を思い出しもした。応募者の言を借りれば「建築基準法第21条第1項但し書きを最大限に活かした」この4階建て木造建築は、設計者の好きにできる自社ビルであるし、様々な法的制約を受けないという立地特性もありはするものの、一般製材を中心にここまでの木の空間が日本でできることを示した例として、大いに挑戦的であるし、啓発的である。

建設地：長崎県壱岐市
用　途：喫茶店、民泊、事務所
構　造：木造
階　数：地上4階
面　積：敷地面積 1,801.89㎡／建築面積 96.71㎡／延面積 292.05㎡

NF-SQUARE O-GAKI

坂本匡史建築設計室一級建築士事務所／（株）青木茂建築工房東京事務所一級建築士事務所

NF-SQUARE O-GAKI_外観

NF-SQUARE O-GAKI_内観

＜審査講評＞
青木茂氏が今日「リファイニング建築」と呼ばれるB級建物の再生に大分で取組み始めてから四半世紀の時が流れた。同種の大規模再生工事はかなり広く行われるようになってきたが、今も尚青木流「リファイニング建築」は先端的だと言える。今回も検査済証のない建物の既存不適格化とそこからの再生設計、雑壁等を全部解体しての建物の軽量化を含む耐震性能向上、外部機関によるRC造建物の耐用年数評価、内外装の一新、そして炭酸ガス削減効果についての外部研究者による評価等、「リファイニング建築」のいわばフルコースが適用されている。

建設地：岐阜県大垣市
用　途：共同住宅、長屋、事務所
構　造： RC造
階　数：地上5階
面　積：敷地面積 919.30㎡／建築面積 268.41㎡／延面積 945.61㎡