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  • 掲載:2025年04月03日 更新:2025年04月03日

日建設計会長に聴く - まちの未来に新たな選択肢をつくる共創プラットフォーム〈PYNT〉
株式会社日建設計 取締役会長 亀井忠夫 × SSOJ 代表理事 永井資久 インタビュー

亀井氏と永井氏
日建設計のブランドビジョンは、「社会環境デザインの先端を拓く」。建築を通してその周辺にある人の暮らしや目に見えないシステムなどを含む「社会環境」の整備、構築に取り組む日建設計が設立した共創プラットフォーム〈PYNT〉。
本日はその設立の立役者である日建設計のトップ、亀井会長に、⽇本空間デザイナー⽀援機構(SSOJ)代表理事の永井氏と共に設立にまつわるエピソードなど、お話を伺って参りました。

Guest

株式会社日建設計 取締役会長

忠夫 | Kamei Tadao

1981年、ペンシルバニア大学・早稲田大学修士課程修了後、日建設計に入社。建築家として、JTビル、クイーンズスクエア横浜、さいたまスーパーアリーナ、虎ノ門琴平タワー、衆議院・参議院議員会館、東京駅八重洲口開発グランルーフ、東京スカイツリー、YKK80ビルなどの設計を担当。一級建築士、日本建築学会会員。

株式会社日建設計
東京都千代田区飯田橋2-18-3
03-5226-3030

一般社団法人 日本空間デザイナー支援機構(SSOJ) 代表理事

永井 資久 | Nagai Tomohisa

1974-1985 西武百貨店入社、インテリデザイナーとして勤務
1985- 総合環境設計事務所テッドアソシエイツ設立
1987-1989 ロンドン・ニューヨーク・マドリッド連絡事務所設立
2018-2024 一般社団法人 日本商環境デザイン協会(JCD)副理事長
2019- SKY DESIGN AWARDS ボードアドバイザー
2024- 一般社団法人日本空間デザイナー支援機構(SSOJ)代表理事

⼀般社団法⼈⽇ 本空間デザイナー⽀援機構
東京都品川区西五反田7-10-4
ルーシッドスクエア五反田
03-5740-8197


設計が担う社会的影響への配慮

亀井氏と永井氏

秋葉 本日は、日建設計さんが運営されるこちらの施設「PYNT」などについてSSOJ の永井さんと共に、会長からお話を伺って参りたいと思います。 始めに、お二人の出会いについてお聞かせください。

亀井  私の記憶によると、最初に永井さんにお会いしたのは、ずいぶん前になりますが、五反田の東京デザインセンターでの照明デザインイベントの時だったかと思います。

永井  そうですね、そのイベントでお目にかかってお話をさせていただいたのが最初で、その後も、日建設計さんを見て行くうちに、他の会社と全く違う凄い会社なのだと認識するようになり、その凄い会社を動かしているのが亀井さんであり、その発想力と行動力は凄いなと常に思っています。その反面、イベントなどでサックスを演奏されるなどファンキーな一面もお持ちなのですが、何より私が素晴らしいと思うのはそのお人柄ですね。重責を担いながら、このような大組織を長年牽引し、ボトムアップさせて来られた実績を考えると、尊敬の念しかありません。

亀井  私は自然の流れに任せて生きているだけで、そんな自覚は全くないのですが(笑)。

永井  そこがまた良いところですよね。
ところで、最初の質問なのですが、日建設計さんが現在取り組んでいる新たな挑戦があれば、そのテーマを教えていただけますか。



亀井  改めて考えてみますと、建築設計の仕事というのは基本的に受託産業なのですよね。ファインアートのように自主的に作品を作り、買いたい人がいればそれを売るというような世界ではなく、クライアントがいて、そこからのリクエストがあって初めて成立する仕事なのです。クライアントからのリクエストにきちんと応えることが大前提なわけですね。但し、このリクエストに応える上で、クライアントも気がついていないようなことを常に念頭に描きながら進めることがプロとしては重要です。建築は、一旦完成しますと、周囲の人々などへの社会的な影響が大きいものであるという視点を、失わないことが重要だと思います。

例えば、最近建設が盛んなデータセンターは、大量の電力を消費しますし、音や熱など周りに対する環境インパクトもありますので、これらの諸問題をどうやれば改善できるかを常に考えます。データセンターを単に機能する以上のことを考えながら設計するというのが、私たちの挑戦といえば挑戦ですね。

大規模開発においては、オフィス何万平米、商業何万平米、ホテル何室などという与件がありますが、それらの組み合わせ方や、それらの間に、いかに安全で快適なパブリックスペースを創るかがポイントになります。いわば隙間スペースのデザインというか、人々が移動したり佇んだりするための空間が大事なのです。渋谷駅街区の開発では「アーバンコア」と呼ばれている空間ですし、東京駅八重洲口開発でもパブリックスペースを地上とデッキレベルに設けました。

日建グループの基本理念"価値ある仕事によって社会に貢献する"

対談する亀井氏と永井氏

亀井  日建設計のブランドタグラインは、EXPERIENCE,INTEGRATEDです。それは「多彩な経験を組み合わせ、豊かな体験を届ける」というものです。日建設計の社員のみならず、外部の方々の経験をも組み合わせましょうということなのです。このPYNTは、まさにタグラインであるEXPERIENCE,INTEGRATEDの実践の場でもあると思っています。

永井  言葉としてはあるけれども、実際にプレゼンしたり体験できたりというところがなかなかないので、すごくいい試みだなと思います。

亀井  ブランドタグラインは2017年に定めたものです。その時にロゴを含めて、ヴィジュアルアイデンティティを一新しました。日建グループの基本理念は、長年変わっておりません。「価値ある仕事によって社会に貢献する。それを通じて個人は成長する。会社も発展していく」です。まず社会に貢献するが冒頭にあり、次に個人の成長、最後に会社の発展となっています。利益を得るというようなことが目的にはなっていないということですね。



秋葉 実際ここPYNTは1年半ぐらい前に運用が始まり、社員の方やいろいろな方が利用されていると思うのですが、思惑通りだったなというところと何か意外な使われ方されているところなどはありますか。

亀井 使われ方は大体は思惑通りかなという感じはします。もう少し建築のリアルな要素が置いてあってもいいかなと思います。リビングルーム的にできていると思うのですが、工房的というか、モノにこだわる設計事務所としての要素があればいいなというふうに感じます。マテリアルセンターが4階にあり、そこにはいろいろな材料を置いてあるのですが。

永井 来てみると結構皆さん、会議室なども含め、想像以上に上手に活用されているという気がしますね。

亀井 最近、ABW(アクティビティベースドワーキング)という考え方があり、このスペースは何するところ、ここは何するところという風に、機能別に分ける考え方もあります。PYNTはもう少しゆるく、昔の茶の間みたいに、そこで子どもが宿題をやっていたり、お母さんがテレビを見ていたり、寝ているお父さんがいたりのような(笑)。適度な空間のつながりがあり誰が何をしているかも何となくわかる。皆がバランスよく、自由に使っている感じがしますね。そういう場に外部の方も違和感なく入って来られる。そういう意味では思い通りだったと思います。今後、ここからどのような情報が発信されて、どんなコミュニテイができていくのか楽しみにしています。

Column
社内と社外を繋ぐ コミュニケーションスペース〈PYNT〉

〈PYNT〉創設のコンセプト

昨年の4月にオープンしました。社内のコミュニケーションを誘発する場を創りたいという思いが前からあったのですが、さらに、社内だけではなく外部とのコミュニケーションを誘発し、私たちの仕事をより一層外部の人々に向けて発信する場にできないかと考えました。ふらっと立ち寄っていただき、我々のやっている活動を見ていただいたり、インフォーマルな会話もできたり、そして仕事に発展していくことも起こりうる「リビングルーム」のようなもの。吹抜け階段で2階から3階まで連続した外に開かれた場になっています。

社員の自由な発信力を育む「峰の活動」

PYNT創設の目的の一つは社内コミュニケーションの場。そしてもう一つは2016 年からスタートした「峰の活動」の視覚化。「峰の活動」には社員が自発的に手を挙げてやりたいことを競う「峰コンペ」というものがあり、新たなビジネスになると思う「峰」を自由に提案しています。PYNTは、そのような活動を外に対しても発信できる、外部とのインターフェースの場にもなっています。

PYNT BAR
PYNT BARは、社内コミュニケーションの場だけでなく、外部の方とのコミュニケーション用としても機能している。

PYNT にあふれる様々な視点や発想

  • 空飛ぶ車が実現化してくると建築の方のあり方も変わってくる。空飛ぶ車が離着陸できるような建築を考える。

  • 消防ホースをテーマにしたアップサイクルに挑戦。中高生と日建設計の意匠設計担当者が廃棄予定の消防ホースを用いて傘袋を一緒に制作。

  • 都市部の中小規模ビルのZEB化に向けた取り組み。建築外装から脱炭素化に寄与することを目指している外装開発のコンセプト。


秋葉 亀井会長が建材を選ぶ際に、重要視する基準とはどのようなものですか。

亀井 やはり素材としては、ひとことでいうとタイムレスのものですね。耐久性とデザインが、時代を経ても陳腐化しないようなものを大切にしています。でも、クライアントの思いと、こちらの提案したものが異なるケースはやはり苦労しますね。

永井 それはやはり、宿命的によくある話ですよね。例えばクラシックが良いといっても、お客さんはモダンが良いとなると、それはやはりお客さんの言うことを聞きながら、何となくこちらの要素も入れ、更に良くしなければならない。プラスアルファがないと設計する上で意味がないので、いかにプラスアルファをクライアントに提供できるかというのが、我々の別のミッションの一つでもありますから。

亀井 プラスアルファを考えるときに、コンテクストに相応しいかどうかも気にかけます。設計者としての責任があり、クライアントのせいにはできませんから。そのあたりのせめぎ合いが難しいところですね。両方を満足できるような提案がいかにできるかということが問われます。

XR STUDIO
4.8m×2.7m×2.7mの空間にプロジェクション、VR・AR・MR などを設置し、さまざまなXR体験ができるスタジオ。建物の3Dモデルを三面図に分解し投影可能。原寸でモデルを投影できるので空間を直感的に体験できる。写真はスカイツリー第二展望台を再現。

秋葉 建材メーカーに向けたご要望などはございますか。

亀井 製品の種類は非常に多いのですが、その中でタイムレスなデザインのものは、限られていると感じますので、そのようなものをいかに増やしていくか。定番商品みたいなものですね。既製品でいやみのない定番商品。それから、もう一つは設備系のアイテムです。例えばスイッチなどは照明、エアコン、ブラインドなど、デザインや規格がバラバラです。並ぶとちぐはぐになります。これらをインテグレイトしてひとつの仕様にならないものかと前々から思っています。

ほかにメーカーに対する要望としては、福祉施設や病院などで使われるユニバーサルデザインのための手すりや、様々なアシストのアイテムがありますが、機能性と美しさを併せもった優れたデザインのものがスタンダードになってほしいと思います。

【SSOJ】の目指すものは

OURBOOKS
個人が選書を紹介できる小さな図書館。一人一区画オーナー制で、日建グループの社員でなくても共創パートナーとして施設を活用できる"PYNT MEMBERS"に登録すればOURBOOKSのオーナーになることも可能。

秋葉 この辺で、今回立ち上げたSSOJについて教えていただきたいのですが。

永井 SSOJは空間デザイン業界を横断的に結ぶネットワークを作って、建築家やデザイナーや企業が直⾯している問題点を解決に導き、企業とデザイナーが相互に活⽤できる機能を構築し、デザイナー及び関連企業の活動⽀援をする事を⽬的としています。

機能としては国際的デザイナー年鑑の刊⾏、相談窓⼝設置(法律・知財・税務・社労・会社設⽴)、企業とのデザインマッチングがあります。⽇本のデザインは世界的に⾼く評価されているわりには、⽇本にどんなデザイナーがいるのかはほとんど知られてはいないのが実情というのもあって、国際的デザイナー年鑑に⾄り、今後は海外デザイン事務所との提携推進や海外企業へのデザイナーの推薦にも⼒を⼊れていきます。

SSOJは新発想の参加メリットの明解な機構だと思います。それに対しては、⻲井さんにもご相談をして、ほぼ無理やりですけど(笑)、上席理事になっていただいて、多大なる協力をしていただいています。もう本当に、心強い信頼できるパートナーに巡り会えたなと思い、非常に喜んでおります。

亀井 私たちを取り巻く環境デザインには、建築家、ランドスケープアーキテクト、インテリアデザイナー、照明デザイナー、グラフィックデザイナーなど多様なプロフェッショナルが関わっています。それぞれの団体はありますが、それをつなげる団体がないわけですね。

永井さんからSSOJについてのお話があった時、この団体はそれらのプロフェッションを横に繋ぐ役割を持ち、クオリティの高い仕事を成し遂げる一助となり得ますので、それをサポートする事に意義があると思い、参加いたしました。

秋葉 本日は有意義なお話を伺い大変勉強になりました。ありがとうございます。

取材

KENZAI-NAVI Media Planner 秋葉 早紀(二級建築士)
実際に「PYNT」の施設を拝見し、最先端の技術や仕組みが盛り込まれたスペースで、新しい活動が挑戦できる交流の場でした。これからのオフィスや働き方について、驚きと発見があり、とても貴重な機会となりました。






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株式会社日建設計 取締役会長

亀井 忠夫 | Kamei Tadao

1981年、ペンシルバニア大学・早稲田大学修士課程修了後、日建設計に入社。建築家として、JTビル、クイーンズスクエア横浜、さいたまスーパーアリーナ、虎ノ門琴平タワー、衆議院・参議院議員会館、東京駅八重洲口開発グランルーフ、東京スカイツリー、YKK80ビルなどの設計を担当。一級建築士、日本建築学会会員。

株式会社日建設計
東京都千代田区飯田橋2-18-3
03-5226-3030


一般社団法人
日本空間デザイナー支援機構(SSOJ) 代表理事

永井 資久 | Nagai Tomohisa

1974-1985 西武百貨店入社、
インテリデザイナーとして勤務
1985- 総合環境設計事務所
テッドアソシエイツ設立
1987-1989 ロンドン・ニューヨーク・マドリッド
連絡事務所設立
2018-2024 一般社団法人 日本商環境デザイン
協会(JCD)副理事長
2019- SKY DESIGN AWARDS
ボードアドバイザー
2024- 一般社団法人日本空間デザイナー
支援機構(SSOJ)代表理事

⼀般社団法⼈⽇ 本空間デザイナー⽀援機構
東京都品川区西五反田7-10-4
ルーシッドスクエア五反田
03-5740-8197

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