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建築家インタビュー
  • 掲載:2008年03月29日 更新:2024年08月07日

住むほどに愛着と味わいの生まれる家づくり

施工事例
大前裕樹
株式会社 大市住宅産業
大前 裕樹(OMAE YUKI)
一級建築士
〒669-2203
兵庫県丹波篠山市吹新64-2
TEL:079-590-1233
FAX:079-590-1235
<プロフィール>
株式会社大市住宅産業 一級建築士
兵庫県生まれ
三重大学 大学院修了(建築学専攻)
設計事務所勤務を経て
株式会社大市住宅産業入社(2010年 代表取締役に就任)
一級建築士として住宅・店舗など様々な設計を手掛ける
            


~取材にあたり~

私たちが日々の生活を送る上での基本的3要素である「衣・食・住」のうち、最も時代の流れや変化に敏感な反応を示すのはもちろん衣であり、次に食となります。それらは一定のサイクルで流行と衰退を繰り返し、時には後退しながらも日々変化を遂げています。それでは「住」の場合はどうでしょう。衣・食ほどの短いサイクルではありませんが、「住」への認識もそれを取り巻く環境も時代の流れとともに確実に変遷を重ねて今日に至っています。
然しながら、「住まい」という観点から考えますと「衣・食」のように使い捨てるわけにはいかない「住」については単なる流行や見た目の美しさ以上に大切な判断基準の線引きが必要となります。

今回のSPACE DESIGNでは、長く住み心地のよい住まいを追求し、できる限りシンプルで飽きの来ない自然素材を取り入れるなど、「住むほどに愛着と味わいの生まれる家」づくりに取り組む建築のプロフェッショナル、大前裕樹氏にお話を伺います。



案件として多いのは住宅の新築

案件として多いのは、住宅の新築・リフォームですが、ご依頼があれば、店舗・商業施設の設計もさせていただいています。




美しい里山の景色を守ることの一翼を担えたことにやりがい

兵庫県丹波篠山市所有のモデルハウス「丹波篠山の家」の設計を手掛けさせていただきました。市役所がモデルハウスを持つというのは極めて珍しいことです。
丹波篠山市は、県の東の山間部に位置しています。市内には国指定の伝統的建築物群保存地区が2つもあり、日本の原風景とも言える美しい里山がひろがるのどかな城下町です。昨今は「田舎暮らし」を求めて都市部から移住される方も多く、年間数十棟の新築住宅が建築されます。
ただ、その多くは全国の住宅地でよく見受けられるような新建材を多用した住宅がほとんどです。市はそのことに憂慮し、里山の風景に見合い、かつ若い世代にも受け入れられるようなデザインの住宅を推奨すべく、「丹波篠山の家」認定制度を創設しました。認定基準に沿って計画した住宅の建て主に対して、最大130万円の補助を行う制度です。
具体的には、①木造である②軒を深くし、屋根には瓦を採用する③下屋を設ける④外壁に左官仕上げや焼板などを使う⑤兵庫県産木材を使用するといった項目を満たすことが条件になっています。

そのひとつの実例として建築したのが、モデルハウス「丹波篠山の家」です。
私はその認定制度の内容の検討時点から関わらしていただき、モデルハウスの設計も担当しました。地元で生まれ育ち、仕事をしている者として、美しい里山の景色を守ることの一翼を担えたことにやりがいを感じました。




何でも設計士に話をしていただくことが重要

計画段階から入居まで、何度も打合せを重ねる間に「これも、あれもしたい」と夢が膨らみます。家づくりにおいて、設計士の仕事は敷地条件や法的制限、コストの制約と折り合いをつけながら、本質的に何を求められているのかを引き出してあげる作業だと考えています。
ですから、細かなことや無理かもしれないということでも、何でも設計士に話をしていただくことが重要だと思います。制約が多いほど、思いもしなかったアイデアやデザインが生まれるものです。建築の場合「絶対にできない」ということはそんなになくて、むしろ「考えたらできる」ことのほうが多いと思います。
いろんな制約や施主の要望は、我々にとってはいわばデザインソースです。そういう意味で双方のコミュニケーションが非常に大切だと考えています。




手仕事で作り上げる仕事を大事にしたい

構造材や仕上げには、できるだけ自然素材や、昔から使われているような材料を現代のデザインに合うように工夫しながら使用したいです。大工を筆頭に、左官や建具職人がどんどん少なくなってきていますが、工業製品ではなく、手仕事で造り上げる仕事を大事にしたいです。
木材は石油製品と違い、当たり前ですが、植林すればいくらでもつくり出せるサスティナブルな材料です。カーボンニュートラルにも貢献できるとして、昨今は公共工事の木質化も推奨されています。杉やヒノキは熱伝導率が低く、フローリングとして使うと冷っとしないし、調質効果も期待できます。
柔らかいので、傷もつきやすいですが、日に焼けて経年的に色合いが変化していき、10年20年経った時に、単に「汚れている」と思われるような材料ではなく「味わいが出てきた」と思える材料だと思います。

一方で、耐震、断熱・省エネで求められる性能はますます上がっていますし、家事の負担を軽減するような設備機器も日々進化をとげています。そういった最新技術の良い所は積極的に取り入れながら、空間全体としては、ほっとできるような居場所を創出していきたいです。
それと建物は必ず古くなるし、痛んでくるものだという使い手の認識も必要だと思います。車だってメンテナンスフリーというわけにはいかないですから、ご自身で出来るワックスかけや床下の点検など簡単なメンテナンスはしていただきたい。逆に言うと設計段階でメンテナンスのこともある程度頭において計画すべきでしょう。その上で愛着を持って使っていただきたいと思います。




発注者の方に喜んでいただけたときが一番

やはり竣工時に発注者の方に喜んでいただけた時が一番です。特に設計と施工がうまくかみ合って、「大工さんがよくやってくれた」などとチームとして評価いただけた時には本当にうれしいです。いくら詳細な図面を書いても、実際に建ってみないと実感できない部分もあります。出来た時に新たな発見をすることもあります。
また、愛着を持って建物を使っていただいている姿をみたり、別のお客様をご紹介頂いたりすることも喜びを感じる瞬間です。




図面は職人さんへの手紙のようなもの

私自身は普段、設計業務を主な仕事としていますが、会社自体はいわゆる工務店ですので、協力してもらっている職人さんとひとつのチームとして仕事をしています。職人さんとの距離が近いので、困ったというようなことは少ないですが、図面は職人さんへの手紙のようなものだという意識で書いています。
意図をくみ取ってもらえるような図面を書くことが大事であって、それでも足りない場合は直接話をします。寒い冬も暑い夏も雨の日も、外で仕事をしてもらっていることにいつも感謝をしています。




その時代に応じたものより良質なものを探求していく

「トレンド」というべきかわかりませんが、耐震性や断熱・省エネ性能、SDGsといった本質的な課題は常に意識にあります。コロナ禍を経て、暮らし方や働き方が変わりつつある中で、建物に求められるものも当然変わってきていると感じています。

建物は長く使うものですから、比較的容易に刷新できるものは、一時のはやりに乗っかってもよいとは思いますが、更新が難しい所はその時代に応じたより良質なものを探求していくことが大事だと思います。




~取材後記~

10年、20年後にも快適に過ごせる、しかも古くなるにつれて味わいの出る家を目指す。頭では分かっていながらも、「住まい」の認識について改めて考えさせられた気がいたします。SIMPLE is BESTですね。初めて、自分の家を持ちたいと思う世代の主流は、30~40代だそうですが、大前先生のように、そうした施主と同年代の若い建築家の方々の感性に今後も大いに期待したいものです。

取材・文 建材ナビディレクター 中島






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シーズン毎で取材させて頂いている建築家へのインタビュー記事です。2007年秋にスタートして四半期毎に新しい記事の更新をしています。住宅、集合住宅、商業施設、公共施設など建築家の体験談をお楽しみください。