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建築家インタビュー
  • 掲載:2023年08月01日 更新:2024年08月07日

「そこにしか存在し得ないもの」としての建築

下田 恭子
株式会社下田設計
下田 恭子(SHIMODA KYOKO)
一級建築士/常務取締役/(東京事務所)代表/宅地建物取引士/住環境福祉コーディネーター2級/既存住宅状況調査技術者
■株式会社下田設計
〒372-0812
群馬県伊勢崎市連取町2334番地10
TEL:0270-23-1431
FAX:0270-23-2294
■株式会社下田設計(東京事務所)
〒165-0034
東京都中野区大和町2-1-5-306
TEL:03-6454-0296
FAX:03-6454-0298
<プロフィール>
弊社は創立40年を迎える建築設計事務所です。建築の計画、設計および監理業務を行いながら、最近ではホームインスペクション等の調査やなどもお引き受けしております。
業務範囲は地元群馬県伊勢崎市を中心に、県内はもちろん関東近郊におよび、2007年からは東京事務所を置き、都内でも多くのお仕事をさせていただいております。

手がけさせていただいてる物件は、個人住宅から公共建築まで幅広く多種にわたり、個人のお客様から企業、社会福祉法人、行政機関と多彩なクライアントからご依頼をいただいています。 中でも医療や福祉関係施設の設計には、事務所開設当初から時代のニーズをとらえ力を入れてきており、個人経営のクリニックから地元伊勢崎市の医師会病院をはじめ、デイサービスや高齢者向け集合住宅など多くの物件を手掛けております。
また、「伊勢崎市景観まちづくり賞」や「ぐんまの家設計・建築コンクール」などの受賞や各種メディア掲載もあり、デザインにも一定の評価をいただいております。


クライアントに寄り添う「唯一」の建築

「そこにしか存在し得ないもの」としての建築を心がけています。 施主の要望や、法的な順守は当然踏まえたうえで、敷地の位置や形状、その周辺環境などを読み取り、その敷地(土地、地域)だからこそ成立する特殊性を持たせるような計画をしています。

建築が長期にわたり使われ続けていくためには、性能ももちろんですが、最終的には、使い手にいかにその建築を「好き」になってもらうか、愛着をもってもらうかということになってくると考えます。愛着が湧けば大切に使ってくれます。 「そこにしか存在し得ないもの」=「施主にとって唯一のもの」は愛着が湧き、また、そのような考えで建てられたものは地域に根付きやすく、使い手はもちろん、地域の人々にも大切に使われ続けていくと考えます。

また、建築設計事務所の中にはある種の建築用途だけに特化し、業務をされている企業もいますが、弊社は多種多様な用途の建築設計をすることで得る知識と経験、様々なクライアントとのお付き合いの中で生まれるコミュニケーション能力の向上を重要視しています。
例えば、個人住宅で得た家族間のプライバシーの考えを公共建築へ活かし、またその逆に公共建築で得たバリアフリーの考えを個人住宅へ活かすといった、異なる用途の建築設計で得たノウハウをまた別の建築設計へとフィードバックしながら、より使いやすく、美しく、クライアントの気持ちに寄り添った建物ができるよう、心掛けており、それが弊社の一番の特徴となっているかと思います。



現場とのコミュニケーションと心がけ

若いころは経験不足ゆえに、職人さんの言っていることが理解できずに困ったこともありましたが、最近はさすがに無いです。
現場で納まりを検討しなくてはならない時などは、職人さんに教えてもらうつもりで積極的に問いかけ、コストを踏まえたうえで、「可能」ななかで最も「(技術的に)高度」な納まりを引き出すようにしています。職人さんも自分の技術が発揮できるのを心待ちにしている部分があるかと思います。

各工事に入る直前の段階で、一度各業者さん、職人さんとともに打ち合わせをする機会を持ちます。そうすることで今回の設計意図を共有してもらい、「それゆえにこのような納まりを考えています。このように見せたい(表現したい)からです。」というこちらの考えを理解してもらいます。

もちろん業者さん、職人さんからの意見にもしっかりと耳を傾けます。また、現場監督が後々困らない(ex.監督が知らないうちにコストが上がるようなことがおこっていた)ように、職人さんと直接話をするときは同席してもらい、それが出来なかった時には、必ずその日のうちに監督に伝えるようにしています。



千葉からの住宅設計依頼

知り合いから住宅の設計者を探しているという方を紹介され、ZOOMでの面接、ヒアリングの上、プラン提案をしたところ大変気に入っていただき、そのまま正式に設計依頼をいただきました。
施主は大手のハウスメーカーと何度か打ち合わせをし、プランも提示されていたのですが、どうも気にいることが出来なかったようで、それならば「設計事務所に依頼する」という選択肢もあるよと、前述の知り合いが弊社を紹介してくれました。

弊社が提案したのは、東西に長い敷地形状を生かした長い平屋建ての建築。玄関土間から一歩上がると、玄関ホールからリビング・ダイニングを超えて、個室に続く廊下までが一直線上に見渡せます。長くて奥行きのある豊かな空間を感じながら、大きく南へ開いた開口から四季折々の変化を感じて生活してもらうという設計意図です。軒を深く出し、水平方向に広がりを持った佇まいの和建築としたのも、その敷地形状から自然と導かれた回答です。
この敷地形状を生かした「そこにしか存在し得ないもの」としての建築を施主はプレゼン図面から感じ取ってくださり、弊社を選定してくれました。

最初の面談から基本設計終了まではZOOMのみで打ち合わせを行い、初めてお会いしたのは数か月後に契約書に押印を頂くときでした。 施主は千葉にお住まいで、弊社が群馬の設計事務所であることはもちろんご存じで、それでも弊社を選定してくれたことは大変うれしいことでした。
また、千葉県に現場を持つことは、弊社では初めての経験でした。



SNSの活用

イマイチですが、個人のSNSでも仕事についてアップ(現場での工事中写真など)すると、「いいね」が比較多くもらえることに気づきました。
みなさん「建築」がどう出来上がっていくかとうことに興味があるのだなあと感じています(であるならばやはり「設計監理」という業務はとても重要であると再認識しています)。若手に担当してもらい、事務所のアカウントにて情報発信していきたいと考えています。

ZOOMでの打ち合わせは日常的なものとなっております。直接お会いせずとも、それで仕事の依頼が決まった時は、コミュニケーションのあり方が変わっていくのだなあと感じました。



住まう人がより楽しく、より豊かに

建築行為は、「施主」「設計者(監理者)」「施工者」のそれぞれ立場の異なる三者が力を合わせて行うものです。
建築の専門知識のない「施主」の代理人として、施主が不利益を被ることなく、建築行為を進めてくことを担うのが「設計者(監理者)」の役目です。「設計者(監理者)」と「施工者」が同じ会社の人間であったり、利益を共有していたりするような体制では良い建築としていくことは難しいと思います。せっかくの家づくりですから、可能不可能は別にしても、自分の考えや要望は全て設計者に伝えてみてください。そのうえで設計者からの提案に耳を傾けてみてください。

施主の要望を満たしただけのプランを作成することは、我々にとってはそう難しいことではありません。そこにプラスして、いかに住まう人々が楽しく、豊かな生活を送れるかについての提案が出てくるはずです。

自分たちが考えていなかったような「数値にして表せない空間の豊かさ」や「ともに創り上げていく楽しさ」が感じられることができればよい家づくりとなっていくはずです。 施主さん自らも楽しんで、家づくりに参加してください。



実績による裏付けがある医療福祉の空間づくり

「そこにいるだけで健康になれるような清々しい空間」づくりを心掛けています。 医療・福祉関係の施設については、地域ごとに定められた福祉条例等もあるため、より高度で幅広い専門的な知識が求められます。
弊社は、長い経験と実績により、不動産、コンサルタント、行政書士、税理士、社労士など、医療・福祉に特化して活動している専門家たちとも強い絆で結ばれています。 こうした医療・福祉関係の専門家とも連携を取りながら、建築の専門家として、常に最新情報を確認しています。 新規に医療・福祉事業を行う方も、今後の展開を考えている方も、安心してご相談していただければと思います。



既存のストックを基に広げる展望

今後の方向性としてはSDGsを実行しながら、「既存ストックの活用」として、建築の再生や再利用に積極的に取り組んでいきたいです。
設計者という立場から、より俯瞰的にものを見る「建築家、プロデューサー」としての視点を持ちたいと考えています。 従来の「設計監理」という業務だけでなく、企画から運営まで、プロジェクトを一貫してプロデュースしていくような立場となり、建築というハードだけでなく、そこで行われるソフトまで提案、係わりを持つような活動をしていきたいです。

一級建築士という国家資格と、培ってきた経験を生かしながら、まちづくりや地域活性化の一役を担えるように活動の場を広げていきたいと思います。
少しでも設計事務所を身近に考えてもらえるように、事務所内で家具や雑貨などを販売し、ふらりとはいっていただけるような場所づくりを考えています。同時にワークショップなど地域に開かれた場所づくりを計画しています。
また、ドローンを活用した業務も視野に入れており、現在弊社には4名のドローンパイロットがおります。単純には建築の撮影や建物点検に利用し、いずれは上述したまちづくりや地域活性のイベントなどに貢献できればと考えています。
業務効率化として、BIMの導入をしております。まだ初歩段階ですが、若手所員を中心に設計ツールとしてはその方針にシフトしていくところです。

今後の弊社の課題としては、「若手の育成」ということがあげられます。まずは建築設計という仕事により興味を持ってもらい、その魅力を理解し、自分たちの仕事は社会的にも誇れるものであることを知ってもらいたい。そのうえでノウハウをしっかりと伝え、資格も取りたくなるような仕事環境を整えてきたいと考えています。
いつかは独立して、「下田設計出身」ということが担保となるような人材を育てたいです。やりたいことは山ほどありますが、確実にひとつづつ実行し、下田設計をよりよい会社にしていきたいと思います。









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シーズン毎で取材させて頂いている建築家へのインタビュー記事です。2007年秋にスタートして四半期毎に新しい記事の更新をしています。住宅、集合住宅、商業施設、公共施設など建築家の体験談をお楽しみください。