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コラム
掲載:2021年06月17日更新:2021年06月17日

最近のお施主様は熱心な勉強家

建築士によくある「現場の困りごと」の一つに、お施主様とのコミュニケーションの難しさが挙げられます。

元来の性格から誰とでも仲良くできる気質の人もいますが、建築士をはじめとした技術系の人間はコミュニケーションに苦手意識を持つ人が多いようです。
さらに最近のお客様は非常に勉強熱心で、専門家でも知らない領域の知識を身に付けていることもあります。

勉強熱心なお施主様から難しい質疑を連続で浴びせられると対応に困ることがあります。
うかつに回答すると知識不足が露呈して恥をかく可能性も否めません。
専門知識をたくさん仕入れておくことも大切ですが、お施主様が勉強熱心になる理由をしっかり理解しておきましょう。

勉強熱心で知識が豊富なお施主様とのコミュニケーションの秘訣や、仕入れておくべき知識について紹介します。

1.家づくりは生涯の一大イベント

最近のお施主様は熱心な勉強家

公共事業や大きな企業との取引を専業にしている建築士であれば、クライアント側の要望やニーズが個人相手よりも理解しやすいかも知れません。

工事が小規模でも、個人のお客様は資金面や表面上の要望以外の深層心理的な部分に深い欲求が潜んでいるケースがあります。 単純に「便器の取り替え工事」といっても、その奥に潜む真の要望は別物である可能性があります。
「表の欲求」だけを受け止めていると、思わぬトラブルに発展するかも知れません。

特に、個人が依頼主になる新築やリノベーション工事の場合、大きな資金が動くので注意が必要です。 ちょっとした意思疎通のすれ違いが大失態を招くかも知れません。
しっかりとお施主様の心理を知り、要望の奥に潜む真の欲求をしっかりと把握するように心掛けましょう。

「家づくりは生涯の一大イベント」といわれますが、一大決心をして多額の資金を投じた家づくりにも関わらず、なぜか満足度は100%になりません。
入念な打ち合わせを繰り返して完成した注文住宅でも満足度は71%程度に留まっています。(SUVACO会員283名のインターネットによる調査データより)

ヒアリングから設計、配置やデザイン等の打ち合わせを繰り返して完成した住宅にも関わらず、なぜこのような結果になるのでしょうか。
お施主様の深層心理と、設計者の提案に何かしらの乖離する心理的原因が存在しているのは間違いありません。


2.実建築士の立場とお施主様の立場

最近のお施主様は熱心な勉強家

工事後の満足度が上がらない理由の一つとして、お施主様と建築士とのコミュニケーションの悪さがあります。 建築業界に限ったことではありませんが、ビジネスは売り手と買い手が存在し、両者の立場や主義主張が乖離するほど大きなトラブルへ発展してしまいます。

早い話、工事後の満足度が上がらない理由は、設計者がお客様の真の意図を正しく汲み取れなかった結果といえるでしょう。

設計を担当する建築士側の心理としては、「オリジナリティを出したい」「デザイン性に優れた住宅にしたい」「ライバルを圧倒するようなインパクトを持たせたい」など、間取りやデザインに力を入れたくなります。

ところがお施主様の心理は設計者とは異なり、「工事を安く済ませたい」「機能性重視の間取りが欲しい」「狭いスペースを有効活用したい」など、資金面や機能性に重点を置いているケースが大半です。

また、注文住宅の設計を建築家に依頼することに対してデメリットとして感じているケースも多くあります。 建築家に設計を依頼するデメリットとして「時間がかかる」「費用が高くなる」といった思い込みがあるためです。
現在の住宅の良い点として判断される基準は「立地・環境の良さ」「間取り」が大きなウェイトを占めています。 逆に住宅の悪い点として「狭い」「古い」といったものが挙げられます。

狭小地や難しい条件下で設計を依頼されることが多い建築士ですが、「建築士と家を建てるのが楽しい」「工事が終わると寂しい気分」といってもらえるような、お施主様と二人三脚のような立場を目指さなければなりません。 


3. 現代社会は情報の宝庫

最近のお施主様は熱心な勉強家

新築の注文住宅でも、小さなリフォーム工事でも、お施主様は自らの身銭を切って設計や工事を依頼するために常に真剣です。 勉強熱心になるのは当然であり、工事に対して真剣であるからこそ失敗しないために多くの情報を仕入れようとします。

わからないことは建築の専門化である建築士に問いかけられます。
昔とは異なり、現代の建築は次々に新しい工法や商品が生み出され、建築業界全体の情報を完全に網羅することが難しくなりました。 お施主様との打ち合わせの中で、初めて聞くような商品名称が飛び出すことも稀ではありません。
お施主様の要望をしっかりヒアリングした上で、必要になる情報はしっかりと仕入れておきましょう。

現代社会は情報の宝庫です。
これは建築士側だけでなく、お施主様側も同条件です。 お施主様が収集する情報を先回りしてチェックしておき、要望に合わせた提案や回答を提示しなければなりません。

建築士は専門知識のある職種なので、より難しい知識をたくさん蓄えようと心掛けますが、お施主様が感じる素朴な疑問や初心者レベルの質問にもわかり易く丁寧に回答できるようにしておきましょう。 初めて家づくりを行うお施主様の立場になって情報収集することが重要です。

特に注文住宅の場合は建売住宅やマンションと違って特有の手続きや打ち合わせが多く、決めるべき事柄も多いため、お施主様は失敗を防ぐためにたくさんの情報を仕入れようとします。
どのようなところから情報を仕入れているのかを知っておきましょう。


4. 建築士なら閲覧しておくべきサイト

最近のお施主様は熱心な勉強家

お施主様と二人三脚で家づくりを担当する建築士であれば、目線を同じにしてお施主様が閲覧する可能性が高いサイトや情報源をしっかり抑えておかなければなりません。
プロ目線だけでなく、初めて家づくりをされる人の目線でも情報を仕入れておきましょう。

お施主様は必ずインターネットを利用した情報収集を行います。
新築注文住宅であれば「各ハウスメーカーのサイト」「地元ビルダー・工務店のサイト」「リフォーム店のサイト」はしっかり閲覧しておきましょう。

抑えておくべき点は「訴求方法」です。

お施主様に「欲しい」と思わせる写真の見せ方やキャッチコピーを把握しておきましょう。
同じリビングの写真でもどんなイメージに見せているのか、何を伝えているのかを知る必要があります。 デザインや機能だけでなく、実際に住んで利用する人のメリットをしっかり抑えましょう。

さらに、知識ゼロからスタートするのが一般の注文住宅のスタイルです。
「家を建てよう」と決意したあと、事前に知っておくべき「家づくりの流れ」「準備」「資金面」などに初期の注意が向かいます。
お施主様の情報収集の流れを把握し、見る可能性の高いサイトは一読しておくべきでしょう。

ハウスメーカーや地元工務店、不動産屋のサイトは初心者向けのノウハウがたくさん詰まっています。 初期の情報はこれらのサイトから仕入れることが多いので、必ず確認しておきましょう。


5.カタログを隅々まで熟読する

最近のお施主様は熱心な勉強家

家づくりを検討する人の情報源はインターネットだけではありません。

熱心に情報収集されるお施主様は、数多くのカタログを請求して隅々まで閲覧されています。
非常に熱心なお施主様の場合、便器の設置に必要な水圧まで確認されるようなケースもあります。
建築士であれば、常に最新版のカタログを揃え、隅々まで確認しておきましょう。

機能やデザインだけでなく、詳細な諸元まで熟読しているお施主様も時々いらっしゃいます。
打ち合わせの際に意外な質問が出る可能性もあるので、商品カタログなどは隅まで確認しておく必要があります。

また、家づくりの場合に参考にされるのがハウスメーカーやビルダーのカタログです。
家づくりを検討する際に、約8割の人が住宅カタログを請求するそうです。(リクルート住まいカンパニーが行なった注文住宅動向調査より)
家づくりの参考にカタログ請求は当たり前になっているので、必ず取得して確認しておきましょう。

住宅カタログには、お施主様に役立つ様々な情報が詰まっています。
写真が多く掲載されていて、イメージが湧きやすいのが特徴です。
家づくりは多くのひとにとって初めての経験で、進め方やイメージすらわかりません。

理想の家のビジュアルが思い浮かびやすくさせる工夫がカタログには盛り込まれているので、隅々まで熟読しておきましょう。


6.まとめ

いかがでしたか。
お施主様は元来から熱心な勉強家であり、家づくりやリフォーム工事に対して非常に真剣な態度で臨んでいます。 情報が簡単に仕入れられるようになった現代では、スマートフォンを利用して気軽に多くの知識を得ることが可能になりました。

建築のプロとしてデザインセンスを磨き、構造や法律を抑えておくことはもちろん重要です。
しかしそれ以上にお施主様の真の要望を理解し、同じ目線に立って家づくりを進めなければなりません。

初めての家づくりを生涯最高のイベントにできるか否かは建築士の手腕次第です。
お施主様が集める可能性の高い情報を先回りして抑えておき、どんな質疑でも素早く誠意的に対応できる体制を整えておきましょう。


著者(田場 信広)プロフィール

・一級建築士、宅地建物取引士

・建築設計、工事監理、施工(大工)、戸建て木造住宅の新築からリフォーム全般、分譲マンションの内装改修、マンションの大規模修繕工事の設計・設計管理、警察署の入札仕事や少年院の特殊な工事も経験

・某資格学校にて2級建築士設計製図コースの講師を6年務める






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