COLUMN
コラム
設計者と現場の確執!職人は何を望んでいるのか?
「建築士あるある」でよくテーマにされる設計者と現場関係者の確執。
設計の立場にいる建築士なら一度は経験したことがあるでしょう。
「現場に行くのが苦手」「職人さんが怖い」「できることなら現場は行きたくない」など、設計に携わった物件でさえ現場訪問を避けたがる設計士も多いようです。
実際、設計士から見た現場関係者、逆に現場関係者から見た設計士という立場には大きな想像の乖離があります。 設計士も現場監督も現場の職人の経験もある私が見たそれぞれの立場と視点を混じえながら、設計者と現場の確執について紹介します。
設計士さんが苦手とする職人さんは、何を思い、何を考えているのか。
そしてどうすれば良好なコミュニケーションを構築し、現場訪問が楽しくなるのかのヒントにして頂ければ幸いです。
設計の立場にいる建築士なら一度は経験したことがあるでしょう。
「現場に行くのが苦手」「職人さんが怖い」「できることなら現場は行きたくない」など、設計に携わった物件でさえ現場訪問を避けたがる設計士も多いようです。
実際、設計士から見た現場関係者、逆に現場関係者から見た設計士という立場には大きな想像の乖離があります。 設計士も現場監督も現場の職人の経験もある私が見たそれぞれの立場と視点を混じえながら、設計者と現場の確執について紹介します。
設計士さんが苦手とする職人さんは、何を思い、何を考えているのか。
そしてどうすれば良好なコミュニケーションを構築し、現場訪問が楽しくなるのかのヒントにして頂ければ幸いです。
1.現場で起こる設計者と職人の確執
設計士さんは、どうして現場に来ないのですか。
現場監督も、職人も、さらにお施主様からもときどき聞く言葉です。
小規模建築物の住宅だけでなく、 現場敷地内に事務所を構えるゼネコンの現場も設計士さんが現場に来る機会はほとんどありません。
マンションの大規模修繕工事でも、 ハウスメーカーの新築工事でも、リフォーム工事でもほぼ同じです。 定期的に開催される「定例会議」がある現場を除くと設計士が積極的に現場に訪れることは稀で、設計士の顔を知っているのは現場管理者のみという工事現場も少なくありません。
建築の仕事は基本的に分業制で、住宅のような小規模建築物でも関連する業種は20種類を超えます。
「設計」も分業の一つで、設計士の多くは自分の仕事を「設計業務」「デザイン」「建築確認申請」などのデスクワーク作業がメインだと思い込んでいます。
また、設計士のすべての人が該当するわけではありませんが、自分を有名建築家と勘違いして横柄な態度を取る人もいます。 お施主様を除いて、設計者が立場的に一番上で、工事業者や職人さんを見下しているケースもときどき耳にします。
世間一般的なイメージとして設計士は「お高いポジション」「上から目線」「横柄」「融通が利かない変わり者」という印象があるようです。
現場監督も、職人も、さらにお施主様からもときどき聞く言葉です。
小規模建築物の住宅だけでなく、 現場敷地内に事務所を構えるゼネコンの現場も設計士さんが現場に来る機会はほとんどありません。
マンションの大規模修繕工事でも、 ハウスメーカーの新築工事でも、リフォーム工事でもほぼ同じです。 定期的に開催される「定例会議」がある現場を除くと設計士が積極的に現場に訪れることは稀で、設計士の顔を知っているのは現場管理者のみという工事現場も少なくありません。
建築の仕事は基本的に分業制で、住宅のような小規模建築物でも関連する業種は20種類を超えます。
「設計」も分業の一つで、設計士の多くは自分の仕事を「設計業務」「デザイン」「建築確認申請」などのデスクワーク作業がメインだと思い込んでいます。
また、設計士のすべての人が該当するわけではありませんが、自分を有名建築家と勘違いして横柄な態度を取る人もいます。 お施主様を除いて、設計者が立場的に一番上で、工事業者や職人さんを見下しているケースもときどき耳にします。
世間一般的なイメージとして設計士は「お高いポジション」「上から目線」「横柄」「融通が利かない変わり者」という印象があるようです。
2.現場サイドは設計者をどう捉えているのか
世間一般的な設計士のイメージではなく、実際に現場で働く職人の立場から見ると設計士をどう捉えているのでしょうか。
私自身も職人として現場で働いていた経験があり、職人側から見た設計士について見聞した意見を混じえて紹介します。
設計士は自分のデザインや作図に自信を持って仕事をしているでしょう。
同じように、職人も自分の技術に自信を持って仕事を行っています。
手際よく効率的に仕事を処理し、仕上がりを美しくさせる技術にこだわりを持っています。
設計士の中には、現場の収まりや作業の流れに詳しくない人もいます。
平面図や立面図など縮尺1/100の図面では正しく収まっているように見えても、実際現場では頭をひねらないと解決しない問題がよく発生します。
お施主様に意向を大切にしながら、現場監督と相談して最終的な収まりを決めるのですが、その時現場サイドの人間は設計士に対して「設計士は現場を知らない」「適当な図面を書くだけ」という感情を抱きます。
実際私も現場で収まらない設計士の図面を何度も見て、解決策に悩んだ経験もあります。
設計士に直接連絡しても「上手に収めておいて」という一言だけで、まるで他人事のように扱われた経験もあります。
設計士が現場訪問を嫌う一つに、収まりなどの詳細な質疑に対応できないという理由があります。
毎日現場で複雑な収まりを考えながら仕事をすすめる職人と異なり、詳細な収まりを知る設計士が少ないのも事実で、設計士と現場の確執が生まれる一つの要因です。
私自身も職人として現場で働いていた経験があり、職人側から見た設計士について見聞した意見を混じえて紹介します。
設計士は自分のデザインや作図に自信を持って仕事をしているでしょう。
同じように、職人も自分の技術に自信を持って仕事を行っています。
手際よく効率的に仕事を処理し、仕上がりを美しくさせる技術にこだわりを持っています。
設計士の中には、現場の収まりや作業の流れに詳しくない人もいます。
平面図や立面図など縮尺1/100の図面では正しく収まっているように見えても、実際現場では頭をひねらないと解決しない問題がよく発生します。
お施主様に意向を大切にしながら、現場監督と相談して最終的な収まりを決めるのですが、その時現場サイドの人間は設計士に対して「設計士は現場を知らない」「適当な図面を書くだけ」という感情を抱きます。
実際私も現場で収まらない設計士の図面を何度も見て、解決策に悩んだ経験もあります。
設計士に直接連絡しても「上手に収めておいて」という一言だけで、まるで他人事のように扱われた経験もあります。
設計士が現場訪問を嫌う一つに、収まりなどの詳細な質疑に対応できないという理由があります。
毎日現場で複雑な収まりを考えながら仕事をすすめる職人と異なり、詳細な収まりを知る設計士が少ないのも事実で、設計士と現場の確執が生まれる一つの要因です。
3. 費用と時間に追われる職人の現実
建築工事は多くの人材と資金が動きます。
新築住宅でも20業種以上の職人が出入りし、大きなビルやマンションの新築工事では連日数十名〜数百名の体制で工事が進行します。
大規模な工事では数億円を超える大きな金額が動くため、金銭感覚がおかしくなるでしょう。
施工業者や職人はさぞかし儲かっているのだろうと、設計士側は思い込んでいるかも知れません。
しかし、現場で働く職人へのアンケートでは、約半数が「収入に満足していない」との結果も出ているそうです。 収入面ではキャリアや職種によって差がありますが、仕事に利用する道具や交通費などは自己負担が多く、金銭的な不満につながる原因になっています。
また、建築現場で働く一番過酷な条件にあげられるのは、夏の暑さと冬の寒さです。
外部工事などはスケジュールが天候に左右され、梅雨時など雨が続く季節は仕事ができないこともあります。 夏の暑さで熱中症になったり、寒さで作業の安全性が低下したりと、一時的に収入が増加しても条件などにより不安定になる季節もあります。
さらに昨今は低価格を目玉に販売される住宅や建築工事も増加し、職人が実際に受け取る費用は厳しくなっています。 事故やケガへのリスクも高く、設計士側が考えているほど職人の労働条件は恵まれたものではありません。
過酷な条件で働く職人から見ると、現場に来ない設計士、収まりを知らない設計士に不満の矛先が向いているのかも知れません。
新築住宅でも20業種以上の職人が出入りし、大きなビルやマンションの新築工事では連日数十名〜数百名の体制で工事が進行します。
大規模な工事では数億円を超える大きな金額が動くため、金銭感覚がおかしくなるでしょう。
施工業者や職人はさぞかし儲かっているのだろうと、設計士側は思い込んでいるかも知れません。
しかし、現場で働く職人へのアンケートでは、約半数が「収入に満足していない」との結果も出ているそうです。 収入面ではキャリアや職種によって差がありますが、仕事に利用する道具や交通費などは自己負担が多く、金銭的な不満につながる原因になっています。
また、建築現場で働く一番過酷な条件にあげられるのは、夏の暑さと冬の寒さです。
外部工事などはスケジュールが天候に左右され、梅雨時など雨が続く季節は仕事ができないこともあります。 夏の暑さで熱中症になったり、寒さで作業の安全性が低下したりと、一時的に収入が増加しても条件などにより不安定になる季節もあります。
さらに昨今は低価格を目玉に販売される住宅や建築工事も増加し、職人が実際に受け取る費用は厳しくなっています。 事故やケガへのリスクも高く、設計士側が考えているほど職人の労働条件は恵まれたものではありません。
過酷な条件で働く職人から見ると、現場に来ない設計士、収まりを知らない設計士に不満の矛先が向いているのかも知れません。
4. 施工性を考慮した設計力が重要
開催されるか未だ不透明な東京オリンピック・パラリンピックですが、開催には多くの建築物が必要になり、多額の工事が発注されました。
また、2025年には大阪万博が控えているため、建設業界には追い風が吹いているように見えます。
実際の話、業界自体は好調です。
大手総合建設会社のほとんどは過去最高益を更新し、市場規模も安定と好調で推移しています。 建設業界は医療・介護業界と肩を並べる巨大な市場規模で、業界の労働人口は約500万人にも及びます。
しかし儲かっているのは大手総合建設会社だけで、下請企業の利益率の低さに驚くかも知れません。
業界の97%を占める下請企業・工事現場の職人は厳しい環境にあるのは事実です。
金銭的に厳しい条件で効率的に働くために、職人は施工性の良い作業を好みます。
同じ労働条件であれば、複雑で特殊なデザインが多い工事よりも、単純で容易な慣れた作業を好みます。
設計士の立場としてはデザインなどの意匠面に力を入れて図面を描きたくなります。
ところがデザイン性優先は複雑な作業の発生原因となり、職人が嫌悪感を抱く要因になります。
デザイン性を優先するか、施工性を優先するかは難しい判断ですが、もしも設計士が現場の収まりや作業の流れを熟知していたら施工性に優れた良いデザインを生み出すことができるでしょう。
実際の話、業界自体は好調です。
大手総合建設会社のほとんどは過去最高益を更新し、市場規模も安定と好調で推移しています。 建設業界は医療・介護業界と肩を並べる巨大な市場規模で、業界の労働人口は約500万人にも及びます。
しかし儲かっているのは大手総合建設会社だけで、下請企業の利益率の低さに驚くかも知れません。
業界の97%を占める下請企業・工事現場の職人は厳しい環境にあるのは事実です。
金銭的に厳しい条件で効率的に働くために、職人は施工性の良い作業を好みます。
同じ労働条件であれば、複雑で特殊なデザインが多い工事よりも、単純で容易な慣れた作業を好みます。
設計士の立場としてはデザインなどの意匠面に力を入れて図面を描きたくなります。
ところがデザイン性優先は複雑な作業の発生原因となり、職人が嫌悪感を抱く要因になります。
デザイン性を優先するか、施工性を優先するかは難しい判断ですが、もしも設計士が現場の収まりや作業の流れを熟知していたら施工性に優れた良いデザインを生み出すことができるでしょう。
5.設計者の意図が反映される理想の現場像
建築業界の中には、私のように設計、現場監督、職人というハイブリッドな職歴を持つ人もいます。
特に地元工務店や小規模なリフォーム店ではスタッフが少ないため、営業から設計、施工管理や作業までオールマイティに仕事を行わなければならないシーンが存在しています。
現場を見ながら職人と触れ合って鍛えられた設計士の図面は収まりが良く、職人たちも納得して作業を進めてくれます。 まさに設計者の意図が現場にしっかり伝わる最高の条件です。
しかし、すべての職種に精通する設計士は稀で、大規模な工事に携わる設計士には皆無な経験です。
ではどうすれば現場から尊敬される設計士になり、設計者の意図が現場に反映される良い関係が構築できるのでしょうか。
住宅工事でも、大規模なビルの工事でも、現場を統括する現場監督がいます。
設計士と最も近い位置で、且つ現場の職人たちとも接触の多いポジションの人間です。
良い建物が完成するか否かは現場監督によって大きく影響されます。
設計者の立場を確保しつつ、意図がしっかり現場に反映し、且つ職人とも良好な関係を築くには現場監督を味方にしなければいけません。
現場監督と密な連絡を取り、常に現場の動きを把握しましょう。
難しい収まりなどを現場監督から教えてもらうのも良い勉強です。
職人さんに収まりを聞くのが怖くても、現場監督なら聞きやすいはずです。
現場監督と仲良くなれば現場訪問の際も安心です。
設計士が頻繁に訪問すると職人も安心感を覚え、結果良好な現場が構築できます。
特に地元工務店や小規模なリフォーム店ではスタッフが少ないため、営業から設計、施工管理や作業までオールマイティに仕事を行わなければならないシーンが存在しています。
現場を見ながら職人と触れ合って鍛えられた設計士の図面は収まりが良く、職人たちも納得して作業を進めてくれます。 まさに設計者の意図が現場にしっかり伝わる最高の条件です。
しかし、すべての職種に精通する設計士は稀で、大規模な工事に携わる設計士には皆無な経験です。
ではどうすれば現場から尊敬される設計士になり、設計者の意図が現場に反映される良い関係が構築できるのでしょうか。
住宅工事でも、大規模なビルの工事でも、現場を統括する現場監督がいます。
設計士と最も近い位置で、且つ現場の職人たちとも接触の多いポジションの人間です。
良い建物が完成するか否かは現場監督によって大きく影響されます。
設計者の立場を確保しつつ、意図がしっかり現場に反映し、且つ職人とも良好な関係を築くには現場監督を味方にしなければいけません。
現場監督と密な連絡を取り、常に現場の動きを把握しましょう。
難しい収まりなどを現場監督から教えてもらうのも良い勉強です。
職人さんに収まりを聞くのが怖くても、現場監督なら聞きやすいはずです。
現場監督と仲良くなれば現場訪問の際も安心です。
設計士が頻繁に訪問すると職人も安心感を覚え、結果良好な現場が構築できます。
6.まとめ
いかがでしたか。
建築現場の設計士と職人に限った話ではありませんが、「確執」とは互いの思い込みや思い違いによるものが原因の大半です。
互いに相手を知り、相手を思いやる気持ちがあれば解消できる問題です。
設計士には設計士の仕事が、職人には職人の仕事がありますが、相手の仕事や立場を深く知ることによってコミュニケーションは良好なものに変わります。
職人がどんなことに悩み、何を望んでいるのかは実際に現場を訪問し、少しずつ聞き出しましょう。
怖そうに感じる服装をしていても、意外に親切な人も多く、一度声をかけると気さくな対応をしてくれる職人もすくなくありません。
慣れると現場は楽しく、事務所より現場の方を好む設計士もたくさんいます。
苦手意識を持っているのは単なる思い込みかも知れません。
尊敬される設計士の最大の秘訣はコミュニケーションです。
建築現場の設計士と職人に限った話ではありませんが、「確執」とは互いの思い込みや思い違いによるものが原因の大半です。
互いに相手を知り、相手を思いやる気持ちがあれば解消できる問題です。
設計士には設計士の仕事が、職人には職人の仕事がありますが、相手の仕事や立場を深く知ることによってコミュニケーションは良好なものに変わります。
職人がどんなことに悩み、何を望んでいるのかは実際に現場を訪問し、少しずつ聞き出しましょう。
怖そうに感じる服装をしていても、意外に親切な人も多く、一度声をかけると気さくな対応をしてくれる職人もすくなくありません。
慣れると現場は楽しく、事務所より現場の方を好む設計士もたくさんいます。
苦手意識を持っているのは単なる思い込みかも知れません。
尊敬される設計士の最大の秘訣はコミュニケーションです。
著者(田場 信広)プロフィール
・一級建築士、宅地建物取引士
・建築設計、工事監理、施工(大工)、戸建て木造住宅の新築からリフォーム全般、分譲マンションの内装改修、マンションの大規模修繕工事の設計・設計管理、警察署の入札仕事や少年院の特殊な工事も経験
・某資格学校にて2級建築士設計製図コースの講師を6年務める
田場 信広の他の記事
RELATED ARTICLE
アクセスランキング(COLUMN)
SumaiRing最新記事
TAGS
お役立ち
建築建材