ウーブンシティ1期完成|最新スマートホーム技術とモビリティを備えた、トヨタが創る未来都市がついに始動

2024年、トヨタが開発する次世代都市「ウーブンシティ」の1期エリアが完成しました。富士山のふもとに位置する、静岡県裾野市のトヨタ自動車東日本の工場跡地に建設されたこの都市は、2025年秋には住民の入居が始まり、スマートホームや自動運転モビリティの実証が本格化する予定です。
本記事では、ウーブンシティが目指す未来の都市像や最新のスマートホーム技術、建築やモビリティの革新について紹介します。
1.ウーブンシティとは?未来の暮らしを実証する都市
ウーブンシティは「モビリティのテストコース」として設計され、最新の自動運転技術やエネルギーマネジメントが実際のヒトの暮らしのなかで検証されます。
また、AIが住環境を自動で調整するスマートホームや、ロボットによる生活支援、オンデマンド型の移動サービスの実証が進められ、トヨタグループをはじめとする企業やスタートアップの研究者が、実際に暮らす住民と共に新たなプロダクトやサービスを開発・検証する場です。
ウーブンシティが生まれた理由
トヨタは2018年、「自動車メーカーからモビリティカンパニーへ」と転換を宣言しました。クルマをつくるだけではなく、「人の移動」そのものを進化させる企業へと変わることを意味します。その背景には、以下の課題がありました。
・クルマを所有する時代から移動サービスへの移行
・高齢化や渋滞、移動困難者への移動問題
・カーボンニュートラルな社会の実現に向けた環境問題
「モビリティのテストコース」としての役割
ウーブンシティは、次世代のモビリティ技術を実証する、モビリティのテストコースとしての機能を持つ都市です。都市内には、歩行者とモビリティが共存できる安全な移動環境を整えるため、3種類の道路システムが導入されています。
・自動運転車専用レーン
・パーソナルモビリティ・自転車専用レーン
・歩行者専用ゾーン
また、AIやセンサーを活用した交通管理技術が導入され、交通の流れをリアルタイムで解析し、渋滞のないスムーズな移動環境の実現を目指した実証が行われています。
2.ウーブンシティの特徴|実証の舞台となる都市
ウーブンシティは、未来の暮らしを実証する「生きた実験場」として設計され、住民が生活しながらスマートホームやモビリティ、エネルギー技術の実証と改良が行われます。
実証が進む住居・研究施設・モビリティエリア
ウーブンシティでは、以下の3つの主要な空間で、次世代の住環境やモビリティ技術、エネルギーマネジメントの実証が進められています。
・住居エリア:スマートホームが導入され、AIやIoTを活用した次世代の住環境を実証
・研究施設:トヨタの技術開発チームに加え、モビリティ・AI・エネルギー分野の研究機関が集結し、都市技術の開発・実証を推進
・モビリティ・エネルギー実証エリア:自動運転モビリティやロボット技術、エネルギーマネジメントの実証を通じ、都市の持続可能な発展に向けた実証
「ビャルケ・インゲルス・グループ」が設計する未来都市
ウーブンシティの設計を手がけたのは、デンマークの建築設計事務所「ビャルケ・インゲルス・グループ(BIG)」です。BIGは、持続可能な都市開発と最新技術の融合を得意とし、ウーブンシティでも「人とテクノロジーが共存する都市空間」を設計しました。
開放的な都市空間
BIGは、歩行者とモビリティが共存できる開放的な都市空間をデザインしました。建物同士の距離や配置を工夫し、都市全体がスムーズに機能しながらも住民が移動しやすい環境を実現しています。
コミュニティを重視した街づくり
BIGは「未来の都市においても、人と人とのつながりを重視するべきだ」と考え、広場や公園、オープンスペースを多く配置し、住民が自然に交流できるような都市設計を取り入れました。オフィスや住居も、公共エリアと一体化するような配置がなされ、働く場と暮らす場がシームレスにつながる空間が生まれています。
スマート技術との融合
BIGの設計は、建築そのものがエネルギーマネジメントと連携し、都市全体で持続可能な運用ができる構造になっています。
・水素エネルギーや太陽光発電を活用したゼロエミッションの都市
・建物の断熱性能を高め、AIがエネルギー消費をリアルタイムで最適化
・デジタルツイン技術を活用した都市のエネルギー消費やインフラ管理
また、ウーブンシティでは従来のコンクリート建築に比べ、CO₂排出量を抑える木造技術を採用し、環境負荷削減を実現しました。持続可能なエネルギーマネジメントと木造建築技術の融合により、環境と共生する持続可能な都市モデルへと進化しています。
3.スマートホーム|ウーブンシティの住まいとは?
ウーブンシティの住居には、AIやIoT技術を活用したスマートホーム が導入されています。住民の行動データをAIが学習し、快適な生活環境を自動で整える仕組みや、住まいが人の健康やエネルギー管理を支援する機能に重点が置かれています。
AIによる生活サポート
AIが住民の行動を学習し、生活を支援する技術が導入されています。住民は意識せずとも快適な住環境を維持できるような設計です。
・室温・湿度の調整:AIが住環境を最適化し、快適な空間を維持
・照明・家電の制御:住民のライフスタイルに合わせて自動調整
健康管理システム
住民の健康状態をモニタリングするシステムが導入されています。
・バイタルデータの測定:心拍・血圧・睡眠データを記録
・AIによる健康アドバイス:データを基に、最適な運動・食生活を提案
・転倒検知・遠隔見守り:高齢者の安全をサポート
エネルギーマネジメント
スマートホームのエネルギーは、水素や太陽光発電を活用し、AIが電力消費を最適化する仕組みになっています。
・家庭用エネルギーマネジメント:電力消費の最適化
・余剰エネルギーの共有:近隣の住宅や公共施設とエネルギーを分配
4.移動の概念が変わる?ウーブンシティのモビリティ

ウーブンシティでは、自動運転技術や新しいモビリティの実証が行われています。都市内の移動には、以下のようなモビリティ技術が導入されました。
e-Paletteと自動運転の実証
トヨタの自動運転EV「e-Palette」 が住民の移動や物流を担います。
・シャトル型の自動運転車両が人の移動をサポート
・荷物の配送やモビリティサービスにも活用可能
・AIとリアルタイムデータを活用し、最適な運行ルートを選択
新しい移動手段としてのパーソナルモビリティ
個人の移動手段として、以下のようなモビリティも実証されています。
・電動パーソナルモビリティ(電動スクーター・電動車椅子など)
・歩行支援ロボット(高齢者や障がい者の移動をサポート)
・オンデマンド型モビリティサービス(アプリで呼び出し可能な自動運転車)
5.ウーブンシティが建築業界にもたらす影響
ウーブンシティで実証されている建築技術や都市設計の考え方の中でも、スマートシティ化・持続可能な建築・モビリティと建築の融合の分野は、今後の建築業界への影響が予想されます。
スマートシティの発展
従来の都市設計では、建築は静的なインフラとして設計され、モビリティやエネルギー管理と区別されていました。しかし今後は、AIやIoTとの連携を前提に、都市システムの一部として機能する建築が求められるでしょう。
例えば、スマートビルディングの普及により、建物そのものが都市のエネルギー管理システムと一体化し、リアルタイムで消費電力の制御が一般化したり、デジタルツイン技術の活用により、都市計画の段階で建築設計と都市全体のデータを連携し、シミュレーションの実施が一般化すると考えられます。
持続可能な建築の新たな基準
ウーブンシティでは、木造建築や水素エネルギーを活用し、環境負荷を抑えた都市が設計されました。今後、持続可能な建築が特例から標準となる流れが加速すると予測されます。
カーボンニュートラルの実現に向け、高層ビルや大規模施設にも木造建築が導入される可能性が高まっています。また、再生可能エネルギーを活用し、建物自体がエネルギーを生み出す構造が求められるでしょう。
モビリティと建築が融合した新たな都市設計
ウーブンシティでは、モビリティと建築が密接に連携し、都市の動線設計そのものが変化しています。
例えば、自動運転車が都市の主要な移動手段となれば、これまで前提とされていた駐車場や道路設計が不要になり、建築デザインの自由度が増す可能性があります。また、モビリティがサービス化することで、建築内部に「移動型のオフィス空間」や「オンデマンドで機能する商業施設」などが組み込まれる可能性も考えられるでしょう。
まとめ

ウーブンシティは2025年秋には住民の入居が始まり、実際の生活の中でスマートホーム、モビリティ、エネルギーマネジメントなどの技術が本格的に実証される段階に入ります。
今後の展開として、ウーブンシティは最終的に約2,000人が暮らす都市へと拡張され、新技術がどのように社会に適用できるのかが検証されていく予定です。
建築業界においても、ウーブンシティでの知見が持続可能な建築設計や都市計画に活かされ、新たな標準の誕生に期待が高まります。今後の進化に注目していきましょう。
建築・インテリアの専門学校卒業後、設計事務所や住宅メーカーに勤務。
現在は建築関連のライターとして活動中。
常に変化する建築業界の話題を丁寧にお届けします。
長谷川 裕美の他の記事


