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掲載:2021年07月07日更新:2021年07月07日

職人の技術やウラ技を設計業務に活かす秘訣

匠と呼ばれる建築職人の世界には、素晴らしい技術や技が数多く存在します。
長い修行期間を経て独り立ちし、さらに技術に磨きをかけ、卓越した技を体得していく厳しい世界です。

宮大工や特殊な建物の建築に携わる職人はときどきテレビなどで紹介されますが、一般の住宅や建築物の作業員にも素晴らしい技術を持つ人は多く存在します。
建築士は現場を知らないとよく言われますが、現場を訪れたときは是非とも卓越した職人技を見て勉強しましょう。

現場を知り、収まりを知り、職人の技術やウラ技を知る設計士は間違いなく強い存在になります。
職人の持つ技術やウラ技を設計業務に活かし、お施主様や現場から尊敬される秘訣について紹介します。

1.建築士の立場を高める秘訣

職人の技術やウラ技を設計業務に活かす秘訣

建築士の役割とは何でしょうか。 また、建築士とはどんな立場でしょうか。

建築士が担う役割とは、建築基準法に従って建物の設計を行うことです。

また設計と同時に、設計図通りに工事が進められているかを監督することです。
さらにマンションなど特殊な建築物では、建築基準法に定められている構造計算が必要な建物には構造計算書の作成が必要になります。

建築士は建築主から設計依頼者の要望を聞き、具体的なイメージを図面で作成していきます。
建築主の好みに合わせたデザインや間取りを設計して建物を計画するだけが建築士の仕事ではありません。
決められた予算内に工事を含めた諸経費等を収めるため、構造や材料の仕様を検討しながら、同時に安全性や耐震性にも配慮しながら設計を進めなければなりません。

どれだけ素晴らしい図面が完成しても、必ず設計図面通りに工事が進められるという保証はありません。 予期せぬ現場のトラブルにより設計変更になる場合もあります。
建築士は常に現場をチェックし、現場監督と入念な打ち合わせを重ねながら、建物の完成まで現場をサポートする必要があります。

表向きには建築士の役割は以上のようになっていますが、設計業務や図面作成などの事務所業務が忙しくなると、現場訪問や工事に進捗確認などが疎かになりがちです。
また、現場関係者とのコミュニケーションが苦手な建築士の場合、工事期間中まったく現場を訪れない人もいます。

これでは「建築士=図面屋さん」の立場になり、お施主様や現場関係者から厚い信頼を獲得することができません。


2.ネットに載っていない情報は貴重

職人の技術やウラ技を設計業務に活かす秘訣

インターネットの出現は世の中を大きく変化させました。
さらにスマートフォンの登場により、情報がより身近になり、場所を問わずどんなことでも瞬時に検索できる便利な世の中に変わりました。

建築業界においてもさまざまな情報が飛び交い、ときに建築士やお施主様を悩ませることもあります。 正しい情報を得ることは非常に大切ですが、正しい情報の全てはインターネット上に存在しているものばかりではありません。

また、建設業をはじめとした各種業界のIT化は、近年急速に加速しています。
さらにAI活用を検討し、人材不足の解消や作業の効率化を図る動きが活発化しています。
急速な情報化とIT化が進みつつありますが、これまで建築現場を支えてきた職人たちの素晴らしい技術が忘れてはいけません。

インターネットにも載っていない「職人技」と呼ばれる素晴らしい技術をもった職人がたくさんいます。 この技術を継承し、建築士も設計業務に応用していくことが必要ではないでしょうか。

プラモデルを組み立てるように最近の住宅工事は効率化と現場の均一化が進んでいます。
Aさんが施工しても、Bさんが施工しても同じ制度の建物ができることは、管理上素晴らしいことです。 しかし、職人技を披露する場面が減り、どことなく味気ない無機質な建物になっているのではないでしょうか。


3. 職人の技術やウラ技を盗む

職人の技術やウラ技を設計業務に活かす秘訣

「職人技」といえば、ときどきテレビで紹介される宮大工が有名です。

神社仏閣の工事は特殊な作業で、高い技術と豊富な知識が求められる仕事です。
ところがこの宮大工も後継者問題を抱え、現在では「絶滅危惧職種」とまで揶揄されるような厳しい状態です。

通常の職人と異なり、宮大工の修業期間は10年といわれます。
地元の神社仏閣だけでなく、世界遺産や国宝などの重要文化財に指定されている貴重な建造物の修繕を担当する宮大工は、全国各地を渡り歩いて仕事をしています。
専門性の高さと加速する高齢化により、後継者が育たない厳しい状態にあるようです。

建築に関する知識だけでなく、宗教や史学といった神社仏閣にまつわる幅広い知識が求められます。
さらに「木組み」と呼ばれる日本の伝統建築の専門的な手法が使われます。
これは一般的な木造建築と異なり、釘や金物をほとんど使わず、加工した木と木をはめ合わせて組み上げていく技術です。

日本は高温多湿な気候風土を持ち、地震にも強い国です。
木組みは日本の過酷な自然環境に耐えるために大切な工法です。
しかし、最近は神社仏閣社などの建築物だけではなく一般住宅を木組み工法で発注する人たちも減少し、地震に耐えるためにさまざまな金物補強が一般化しています。

古民家を修繕して住居や商店に改修する風潮もあり、木組みのニーズは決して低くはありません。
このような伝統的技術を伝承しつつ、実際の建築作業に活かせる設計が必要ではないでしょうか。


4. 現場の流れと収まりを知る建築士へ

職人の技術やウラ技を設計業務に活かす秘訣

新国立競技場の設計で大きな注目を集めた建築家の隈研吾氏。
木材を上手に利用する建築が印象的です。 「和」をイメージしたデザインが特徴的で、「和の大家」とも称されています。

多くの受賞歴を持つ隈研吾氏ですが、注目すべき作品は「スターバックスコーヒー太宰府天満宮表参道店」です。 釘を1本も使わない木組みで、2000本のスギを使用した素晴らしいデザインの店舗です。

長細い敷地を上手に活用し、光と風が流れるように計画され、約2000本の杉材を斜めに組んだデザインです。 温かみと優しさを与えつつ、筋交いとして建物を支える機能を有しています。
まさに伝統的技術や職人技を近代建築に活かした最高ランクの設計と称しても間違いないでしょう。

このような素晴らしい作品が誕生する背景には、伝統的技術への高い関心、現場の流れや詳細な収まりを熟知する必要があります。

建築は芸術性という面を併せ持っていますが、建物として機能しなければ意味がありません。
設計図に描かれる建物は、やがて現実社会に具現化し、様々な人に利用されることになります。
技術を知り、現場を知ることが建築士として大切な役割です。


5.お施主様の強い信頼を獲得するために

職人の技術やウラ技を設計業務に活かす秘訣

お施主様から見る建築士の信頼とは何でしょうか。

一級建築士といえども、実は建築実務をよく知らない人が多くいます。
特に現場の収まりに関してはよく知らない状態で図面を作成しています。
もちろん全ての建築士に該当するものではありませんが、特にデザイン性を重視する建築家ほど現場を知らないといわれます。

自分で現場に赴き、自分の手で木や鉄やコンクリートを触らなければ、施工図の作成や詳細な収まりを記載した図面は作成できません。

建築士のメインの仕事は設計です。
建物の間取りを考え、デザインを行い、図面を作成することが最も大切な仕事です。
しかし、意匠図だけ作成する建築士では、お施主様や現場関係者から強い信頼を獲得することはできません。 単なる「図面屋さん」という立ち位置に終わり、建築士として誇れる仕事ではないでしょう。

図面しか描けない建築士に対して、お施主様はそれぞれの事情や難しい問題について相談したいと思うでしょうか。 私なら「ノー」です。

建築現場を知り、職人の技術を知り、伝統工法を知り、作業の流れや収まりを知り、それぞれを設計業務に活かせてこそ真の建築士の信頼ではないでしょうか。
インターネットの情報や、書籍、写真だけでは現場で起きることや職人の技術は理解できません。
頻繁に現場に赴き、職人と接し、常に現場の技術やウラ技を学ぶ姿勢が必要です。


6.まとめ

いかがでしたか。
建築士が職人の技術やウラ技を設計業務に活かす秘訣や必要性について紹介させて頂きました。

プールに入った経験がない人は、いくら水泳の方法を理論的に知っていても泳ぐことはできません。
どれだけルールに詳しくても、ボールを蹴った経験がない人がサッカーで勝つのは難しいでしょう。

建築も同じです。 現場で繰り広げられている職人の技術やウラ技は、設計図面を作成しているだけでは学ぶことができません。 また、同じ建築の世界に属しながら、伝統的技術さえも知らないようではお施主様の信頼にもつながりません。
現場を知り、技術を知り、設計業務に活かすことが建築士の真の役割ではないでしょうか。

積極的に現場に足を運び、職人技を実際の目で見て経験値を増やしましょう。


著者(田場 信広)プロフィール

・一級建築士、宅地建物取引士

・建築設計、工事監理、施工(大工)、戸建て木造住宅の新築からリフォーム全般、分譲マンションの内装改修、マンションの大規模修繕工事の設計・設計管理、警察署の入札仕事や少年院の特殊な工事も経験

・某資格学校にて2級建築士設計製図コースの講師を6年務める






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