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掲載:2020年12月13日更新:2020年12月13日

超優秀な建材「不燃木材」が建築の未来を担うと言える理由

建築にまつわる技術や工法が日進月歩で様変わりしていく中で、新しいテクノロジーと古くからの伝統が出会うことにより、建築に新しい変革が生まれることがあります。
日本が誇る木造建築の伝統・ノウハウと「不燃木材」という新しい技術の組み合わせにより、建築に新しい変化が生じています。
この記事では、

・不燃木材の概要
・建築における木材の有用性
・不燃木材で何が可能になったのか

についてご紹介します。

不燃木材とはどんな建材か


不燃材料について建築基準法では、火災が起きた際に、

・燃焼しないものであること
・防火上有害な変形・融解・亀裂その他の損傷を生じないこと
・避難上有害な煙またはガスを発生しないものであること

と定義しています。 さらに、上記の条件にしたがって20分間火災に耐え得るものを「不燃材料」、10分間耐え得るものを「準不燃材料」、5分間耐え得るものを「難燃材料」と規定しています。

木材は通常、火災との相性が悪くすぐに燃焼してしまう材料ではありますが、特殊な不燃処理を施すことにより、国土交通大臣により認定された「不燃材料」とすることが可能で、不燃材料として認められた資材には、

・不燃材料なら「NM」
・準不燃材料なら「QM」
・難燃材料なら「RM」

というアルファベットが付された認定番号が交付されます。

不燃木材の製造方法

木材を不燃木材とするには、製材後に不燃薬剤に一定期間浸しておく「浸漬工法」が一般的です。

この工法では、木材に含まれる水分と不燃薬剤が置換されることにより不燃性能を発揮できるようになるため、切り出されてから間もないグリーン材(ほとんど乾燥していない状態の木材)が使用されます。 薬剤から取り出した木材を養生・乾燥させ、最終的な加工・仕上げが施されたあと、製品として出荷されます。

この浸漬工法では乾燥のために長い期間を必要とせず、伐採から出荷までの時間が短縮されるため、エネルギーコストの削減を図ることも可能です。

不燃木材に注目すべき理由

現在、不燃木材が特に注目すべき建材だと言えるのには、下記のような理由があります。

木造建築は長らく発展しなかった

日本では古来より木造建築の技術が高度に発展していましたが、戦後、木造よりもコンクリート造の建築が好まれるようになり、長きにわたり技術的にはほとんど発展しない期間が続きました。

このような木造離れが進んだのには、木造建築が火災に弱く、特に都市部の木造密集地帯では一件の火災がまたたく間に大規模な火災に発展するという状況がしばしば見られたためであると考えられます。

しかし、炎に強い「不燃木材」の登場により、木造建築は再び脚光を浴びるようになっています。
「燃えやすい」という木材の最大の弱点を克服した不燃木材の進化を受け200年6月の建築基準法が改正され、木造でも基準に適合する十分な耐火性能を有しているものは鉄筋コンクリート造と同等の耐火性能がある建築物として認められるようになり、木造による大規模な建築が可能になりました。
さらに2019年にも建築基準法第21条・27条が改正され、木造でも75分耐火・90分耐火という改正法に基づく新基準や「燃えしろ設計」(通常の火災が生じても燃え残った部分で構造耐力を保てるような設計)などの基準を活用することにより、木造で設計できる建築物の幅は広くなり、デザイン上もより自由になりました。 このような改正により、より魅力的でユニークな木造建築物はこれからも増えていくでしょう。

木造建築の優位性



サステナビリティ
近年、建築に関連して「サステナブル」という言葉が頻繁に聞かれるようになりました。 これは、短スパンで建築物を作っては壊し、また作るというサイクルを改めようという動きですが、この流れの中で「木造」が注目を集めつつあるのです。

一部には「木造建築は寿命が短い」という誤解が残っていますが、これは税制上、木造住宅の耐用年数が33年と規定されていることが一つの原因になっているようです。 税制上の「耐用年数」というものは、あくまで資産価値に焦点を置いたもので、耐用年数=寿命というわけではありません。
法隆寺のように築1000年を裕に超えるものや、民家でも築数百年になるものが現存していることを考えれば、木造住宅の寿命はむしろかなり長いといえます。

さらに木造建築はその他の構造の建築物に比べてメンテナンスやリフォームが行いやすく、一つの建物を建て替えることなく長持ちさせるのが容易=サステナビリティが高いという点も木造の優位性として挙げられるでしょう。
環境への悪影響の低減
また木材を積極的に利用することにより、森林では植林→生長→伐採というサイクルが生まれます。 伐採=環境破壊というイメージがあるかもしれませんが、上記のような森林の代謝サイクルが適切なペースで保たれれば、森林の木々は活発に光合成を行う若い木々の比率が高く保たれる(樹齢が上がるとCO2吸収量も低下する)ため、長期的なCO2の削減も期待できます。
また、木材には製造・建設を行う際にC02を発生させにくいという特徴もあります。


有名建築に使用される不燃木材

近年、日本の著名な建築家たちは木に注目しているようですが、これも不燃木材の発展・進歩に合わせて法改正が重ねられ、建築において木でできることの幅が広がってきたことが一因であると言えるでしょう。

代表的なものでは、隈研吾氏設計の「スターバックスリーザーブロースタリー」(東京都)や「ゆすはら森の図書館」(高知県)、坂茂氏設計の「富士山世界遺産センター」(静岡県)などで、不燃木材の使用例を確認することができます。

これから気にかけるべき「ウッドマイレージ」

上記の通り、木造は環境にも優しく日本の風土・文化にマッチする優れた建材で、不燃木材により建築にさらに幅広く活用できるようになりましたが、環境のためにはさらに木材の「産地」にも注目する必要があります。

これは「ウッドマイレージ(またはウッドマイルズ)」という言葉で説明される概念で、材木の輸送によって発生するCO2が環境に与える負荷を表す指標です。 生産時には基本的に環境に与える負荷が少ない木材ですが、海外から輸送するなら多くのCO2を排出し、結局のところ環境へ大きな負担をかけてしまうことになります。

特に日本では木材の自給率が3割と低い上に、南北アメリカやヨーロッパ、アフリカなど遠方の外国から多くの材木を輸入しているため、ウッドマイレージは諸外国と比べても非常に高くなっています。 木造住宅に必要な木材を全てヨーロッパ産で建てる場合には、すべて地域産の木材で建てる場合より14倍ものCO2を排出量しているというデータもあります。


上記に紹介した建築家たちも、意識的に国産、特に地域産(建設地の地元で伐採された木材)を使用しているようです。 日本は国土に十分な森林面積を持つ国ですので、木材に関しても健全な地産地消のサイクルが出来上がれば、ウッドマイレージは下がり、環境への負担を軽減していくことが可能になるでしょう。

まとめ

不燃木材は非常に有用な建材であり、耐火建築に関連する法改正に伴いより一層活用されていくことが期待できます。
さらに、日本の木材自給率は低いとはいえ、ここ数年上向いてきているという状況も見られます。 不燃木材の地元で生産し、地元の建築物に活用するというサイクルを作り出すことができれば、環境への負担は減り、産業全体の健全な発展にも貢献できるでしょう。


著者(澤田 秀幸)プロフィール

CAD利用技術者1級、CADアドミニストレーター
住宅メーカの下請けとして木造大工作業を担当。
注文家具の製造と設置。製図補助を担当。
国内最大手インテリアメーカーの店舗で接客・販売を担当。






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