大規模建築の木造化・木質化への流れと木材の活用方法について
近年、木造化や木質化に対する捉えられ方に変化が出てきています。木材は燃えやすい、脆い、取り扱いにくいといった印象から、デザインの一部として取り入れられるようになり、住宅だけではなく大空間の施設の構造材としてもその価値が見直されるようになりました。
この記事では木造化と木質化にどのような動きがあり、木材がどのように使われ始めているのかを紹介していますのでご覧ください。
1.大規模建築でも木造が選択肢に
大建築といえば、鉄骨造と鉄筋コンクリート造2種類の構造がもてはやされていた時代が長く続いていました。日本で古くから馴染みのある木造建築は、住宅など小規模な建築物が中心となり、その他には歴史のある建築物や古い街並みの修繕や保全、改築などに範囲が限定されがちでした。
住宅は105角や120角などの規格材を主軸に設計されるのに対し、お寺では独自の匠の技、伝承な技術や知識が必要となり、住宅ではあまり使用しない立派な材木、樹種を使用することが多く、2つは対照的な建築であるとも言えます。
近年、地球温暖化問題への対策、森林保全を目的として、国や公共団体を中心に、木材の積極的な活用を促す動きがあります。同時に、木材加工技術が格段に上がったことで性能が一定レベルまで確保しやすくなり、研究機関で木材そのものの性能の確認が進むなど、木材は利用しやすい素材という認識へと徐々に変化。技術面が進歩し、数値化も進んだことで施工方法も共有化しやすくなってきました。
大規模な木造建築物は、少し前まで画期的で珍しいものでありましたが、今では全国で見かけることができる建築へと成長してきています。実際に、平成30年度における国が取り扱う公共施設では、新設において木造がおよそ9割という結果が国土交通省から公表されています。公共施設の木造化は当然となり、木造にできるものはどんどん木造にしていこうという流れを感じずにはいられません。同様に、民間の商業施設や集合住宅にも木造が取り入れられ始めるなど、木材の活用は著しいといえます。
大規模建築において木造化を進めるには、まずは法規チェックが必須です。その上で、大空間を作り上げる際には、大きく分けて3つの方法が取られる傾向にあります。1つ目は、大断面の木材の梁を使用し長距離とばす工法。2つ目は、細い部材で架構を組むことで強度を確保した小屋組みを作り上げる方法。3つ目は、柱を敢えて大空間内に配置しデザインの一部や用途を補うものとして取り入れる方法があります。どの方法が最適であるかは、設計者、施工者によって、使用用途、構造、コスト、施工技術など様々な角度から検証されます。
2.木質化の人や環境に与える効果と可能性
木造化の流れがある一方で、学校や保育園などでは改修による木質化も進められています。白い壁に冷たい床、もしくは古くなったカーペット、無機質な建具類も、木材を効果的に使用すれば温かみが増し、ガラリと印象を変えることができます。
木材の香りを嗅ぐと、懐かしい気持ちになったり、落ち着きを感じたりといった経験がある人も多いのではないかと思います。子どもたちの情緒に影響を与え、勉強や集団生活で少なからずストレスを感じている子どもたちにも最適です。実際に木材を適度に使用した空間で過ごすことは、気持ちを落ち着かせたり、集中力が上がったりと、子どもたちにプラスの影響を与えることが論文で報告されています。
また、木の均一でない見た目や触り心地などは、子どもたちに想像力を与え、五感を豊かにしてくれます。木材を室内に使うことが、子どもたちと自然との対話への一歩に繋げてくれるものではないでしょうか。
木材の役割はそれだけではありません。古い校舎などでは、雨の日に建具や壁に結露を生じることがありますが、木材には調湿作用もあるため、室内環境を整える効果を発揮します。
さらに、木材は他素材と比べ密度が小さいことから、冬の時期に床や壁に触れた際の冷たい感触は軽減され、むしろ温かく感じられることもあるほどです。
民間の学童では保護者の取り組みにより、木をふんだんに使った施設が建設された事例があります。これらの学童では、子どもたちがのびのびと過ごすようになったり、集中できるようになったりと変化が出ているのだとか。このような効果は、子どもたちだけでなく大人にも作用しています。子どもに関わる先生や保育士にとっても、身体的、精神的なストレスを緩和するなどよい影響を与えることから、間接的にも子どもによいことは間違いありません。
また、仕上げ材に木材を利用することは、間伐材の利用や構造材では使用しない木材の有効活用にも繋がりやすいと考えられます。木材を使用することは森林環境の健全化にもつながり、樹々がのびのびと育つ環境を整えることができれば、二酸化炭素の吸収率を上げる効果も期待できます。
3.木という存在を室内に
保育園や子ども向けの施設では、立木の状態での形状をできる限り生かした意匠を取り入れられることもあります。角柱や円柱に製材せず、表面は樹皮を剥くだけで、凸凹の形を残した状態で空間に存在させます。手間や費用をかけても取り入れようとするのは、視覚的な効果や、木の持つ物語性を取り入れることなどを期待してのことではないでしょうか。
このような木材の活用方法を実現するためには、設計者および施工者と、林業や製材所とのやりとりも発生します。場合によっては山での伐採の様子を子どもたちに見せるなど、特別な体験を通して五感に訴えかける活動も行われています。子どもたちにとって山での体験が建物に対する愛着にもつながり、長期的には自然を大切にしようという気持ちを育むような、素晴らしい影響をもたらすのではないかと期待されています。
一方で、衛生管理の観点から木材を利用しにくいとされるクリニックや養護施設では、優しい雰囲気や明るい院内にしたいという思いから、木材以外の素材で木目調のものが取り入れられることも少なくありません。定期的に清掃や消毒作業が発生するため、仕上げ材には拭き取りやすい素材が使われることが多いですが、清潔感のある白い壁や天井だけでは無機質に感じられるため、暖色の木目調のものが取り入れられるようです。
中には、壁面や床の仕上げだけではなく、樹を催したオブジェを待合室や廊下に設置するクリニックもあります。このような実例を見ると、日本人にとって樹の存在そのものが大きな意味を持つのではないかと思わずにはいられません。
4.木材のメンテナンス
木材は、「ささくれるからクレームの原因になる」「かびたり朽ちたりしやすい」というように、情報不足や経験不足から、一部の人に苦手意識を持たれてしまうことがあります。本当に木材は取り扱いにくい素材なのでしょうか。寺や古民家など長い年月愛されている木造建築があるように、適材適所に木材を使う建設側の技術や知識と、使う人が定期的に正しいメンテナンスを行えば、木材は長持ちする素材なのです。
メンテナンスというと、難しく感じる人もいるかもしれません。必ずしもプロに依頼しなくても、使い手の手入れである程度まで対処できるのが木材の魅力。定期的にオイル塗装を行なえば汚れや水から表面を保護することができ、小さなささくれや傷は簡単なやすりがけで対処することができます。
また、床には敢えて厚めの板を張り、全体の傷や汚れが目立ってきた際には全面を専用機器で削りとるなど対処すれば、新築時のようなきれいな状態に戻すこともできます。気になる箇所が部分的な場合は、木材であれば板一枚から取り替えることが可能です。このようなメンテナンスのしやすさも木材を使用するメリットなのです。
まとめ
大規模な建築物や施設での木造化や木質化は、環境保全や子どもたちの環境作りなど様々な視点から見て、今後も大切になると考えられます。建築関係者にとっては木の特性を活かした使い方、新しい技術や製品の情報を積極的に得る姿勢は、ますます意識していくべきでしょう。
同時に、施設利用者や子どもたちに木材に対する正しい知識を得てもらうためのワークショップや、親しんでもらうための体験を促すプログラムを増やし、木造化や木質化された建物に親しみや愛着を持ってもらう活動もさらに積極的に取り入れる必要があるでしょう。
意匠設計事務所で10年以上勤務し、主に木造住宅の新築、リノベーション、施設の木質化などの設計経験あり。
設計・ライターの仕事をしながら、木育活動にも取り組む。