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掲載:2021年06月11日更新:2021年06月11日

地震に強い最強の家づくりを学ぶ

私達が住むこの日本は、諸外国と比べて非常に災害の多い国の一つです。地震や台風などの自然災害と常に背中合わせで生きてきた国です。因みに地震の発生率は、中国、インドネシア、イランに続く世界4位の上位ランキング国です。記憶にもまだ新しい東日本大震災をはじめ、過去に何度も巨大地震による大きな被害を被り、尊い命を犠牲にしてきました。
今もなお続く東日本大震災の「余震」とされる最大震度6強の加え、さらに今後は南海トラフ地震などのさまざまな地域で巨大地震発生の危険性が指摘されています。

大切な命や財産を守るためにも、家づくりに携わる建築士であればしっかりとした耐震の知識と最新の地震対策関連のシステムを学んでおきましょう。

1.地震と建物の関係を歴史から振り返る

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地球の表面は「プレート」と呼ばれる巨大な岩の板で覆われています。
プレートは全部で十数枚あり、それぞれ別の方向に向かって毎年数センチずつ動いています。このプレート同士が近づく場所では、地震の源になるエネルギーが蓄積されています。私達が暮らすこの日本列島の周りには4つのプレートがぶつかり合い、世界的にも地震が多い地域になっています。

余談にはなりますが、日本海溝から千島・カムチャッカ海溝の合計約3,000キロの断層がもしも全て60メートル程度動いた場合、M10.0の地震が起こると東北大が試算した結果があります。これは東日本大震災の30倍超に相当する巨大なエネルギーです。
確率的に起こる可能性は低い地震ですが、現実的に危険視されているのが南海トラフ巨大地震です。被害は東日本大震災の10倍超と予想され、2030~40年に起きるであろうと想定されています。

地震は過去に何度も繰り返されていて、過去の痕跡を調査するとある程度の周期を予測することができます。超巨大地震と呼ばれる地震が数百年単位で起き、この周期を「スーパーサイクル」といいます。南海トラフだけでなく、千島海溝も巨大地震が切迫しているとして警戒されています。

大切な命や財産を守るためにも、住宅をはじめとした建築物の耐震性の向上や安全の確保は建築士として果たさなければならない大切な義務の一つです。


2.地震に強い家づくりの基本条件

地震に強い最強の家づくりを学ぶ

日本は国の総面積に比べると人口の多い国で、同時に住宅の数も多くなります。
住宅を構造別に分類すると、木造が約6割を占め、鉄筋コンクリート造や鉄骨造などの非木造が約4割となっています。過去の巨大地震で大きな被害を被ったのは「古い木造建築物」が中心でした。決して木造が他の構造に劣るということではなく、被害が増えた理由の一つは建築基準法で定められている「耐震基準」が甘かったということです。

1950年に制定された建築基準法では、震度5程度の地震に耐える基準が義務付けられました。これが「旧耐震基準」と呼ばれる古い耐震基準です。その後、耐震基準は1981年に大きく見直され、震度6~7程度の地震ではすぐに倒壊・崩壊しない想定の「新耐震基準」が施行されました。

ところが、その後も巨大地震による被害が続き、2000年に再び建築基準法が改正されました。建物の耐震性についてさらに具体的な規定が定められた「H12年新耐震基準」が現在の耐震基準となっています。そして、地震による建物の倒壊・崩壊のしにくさなどを1~3の等級で示して、地震に対する建物の強さを分かりやすく表示しています。ただし、地震は建物の強度だけで決まるものではありません。同じ揺れを受けても「地盤」の影響で被害は大きく異なります。ゆるく堆積した砂の地盤に強い揺れが加わると、地層自体が液体状になる現象のことを「液状化現象」と呼びます。

建物が地震の倒壊から免れても、地盤が弱い状態では建物自体を守ることができません。耐震等級を上げることに加え、地盤への対策も必要となります。


3.耐震基準の基本のキ

地震に強い最強の家づくりを学ぶ

一定規模以上のRC造や鉄骨造などは建築基準法で「構造計算」が義務付けられています。ところが、かつての木造住宅における構造計算は非常に簡易なものでした。接合部の強度や材質による強度の差異が起こりやすいうえ、計算が複雑であったことも背景となっています。

繰り返される巨大地震の影響により改正された耐震基準を満たすべく、木造も日々地震に対して強い構造へと進化を遂げ続けています。現在の新築住宅では木造住宅においても耐震等級3が標準となってきました。

因みに3段階の耐震等級は以下のとおりです。
耐震等級1:「建築基準法」で定められた地震に耐えられる建物。
耐震等級2:耐震等級1の1.25倍の耐震性。学校の校舎や避難所と同レベル。
耐震等級3:耐震等級1の1.5倍の耐震性。警察署や病院と同レベル。

地震は新築住宅にのみ及ぶわけではありません。耐震基準を満たさない既存住宅もたくさん存在し、その住宅で暮らす人も大勢存在しています。すべての建物や生命を守るためにも、既存住宅における耐震改修工事が促されています。
耐震改修工事を行う前に必要になるのが耐震診断です。耐震診断はお住まいの市区町村や都道府県の担当部署に問合せをすれば受けることができます。


4. 耐震工事関連の制度を有効活用する

地震に強い最強の家づくりを学ぶ

新築で住宅を建築する場合は、建築前の耐震性能を確認することが可能です。しかし、すでに住んでいる住宅の場合は、耐震診断を行って確認しなければなりません。自治体によっては、耐震診断費用や耐震改修工事の補助してくれる制度があり、必ずお住いの自治体に問い合わせて確認しましょう。自治体によっては無料で行ってくれる制度もあるようです。
耐震診断を行うのは「耐震診断士」と呼ばれる人ですが、公的な国家資格があるわけではありません。ただし耐震診断士は、建築と耐震設計の知識を持った人のみが取得可能なので心配は不要です。
また、耐震診断士になるためには建築士の資格保有者でも講習を受ける必要があります。耐震診断を受け、補強の必要ありと判定された場合は、耐震改修工事をオススメします。

木造住宅の耐震補強工事の場合、診断結果によっては部分的に行うことも可能です。簡易工事の場合は10万円以下の費用で工事を完了できる場合もあります。当然ですが、補強や修繕が必要な箇所の数が増えるほど工事費用は増加するので注意が必要です。耐震改修工事に関しては補助金制度のある自治体も存在するので、事前に確認しておきましょう。
実際に私も過去に何度か耐震改修補助金を利用して工事を実施しましたが、耐震改修に対しては自治体も積極的に取り組みを行っているので親身になって対応していただけることが多いように感じました。


5.最新の地震対策システムを紹介

地震に強い最強の家づくりを学ぶ

建築士として住宅や建築物の耐震性向上に努めるためには、最新の耐震関連の技術やシステムを把握しておく必要があります。建材ナビにも役立つ技術やシステムがたくさん紹介されていますので、オススメのシステムを2つ紹介します。

1つ目は「地震モニタリングシステム 」の「ユレかんち」です。
「ユレかんち」は地震時の建物の揺れを測定し、建物の健全性を判定するシステムです。地震の動きを加速度データとして感知し、その情報をクラウドサーバーに送り、サーバー内で建物震度として計算して安全性を判定します。PCやスマートフォンでその情報を取得することが可能で、建築物の機能維持や地震情報配信として「公共建築物」「テナントビル」「インフラ構造物」などの比較的大型の建築物に利用されています。
今後は住宅用などの小型タイプが出現する可能性が高いと予測できる期待の商品です。

2つ目は「住宅用免震システム」です。
地震対策には「耐震」「制震」「免震」の技術がありますが、特に免震は費用面に難点があり、一般の住宅用としては導入が難しい技術でした。「THK免震システム」は、THKの主力製品であるLMガイドやボールねじを応用した免震装置です。
もちろん住宅の利用だけでなく、設計の自由度が高いためさまざまな建物に対応することが可能です。


6.まとめ

いかがでしたか?
「備えあれば憂い無し」と昔からいわれるとおり、地震は起きてから対策しているようでは手遅れです。新築であれば最初から耐震性を向上させ、既存住宅であれば積極的に耐震改修工事を勧めましょう。

また、耐震技術や耐震関連商品は日進月歩です。常に最新の情報を仕入れ、優れたものは普及に努めなければなりません。もし急に巨大地震が起きても、安心して暮らせる家づくりを提供するのが建築士の義務でもあります。
被害を最小限にし、もう二度と尊い命を失わないためにも、今できることをしっかり把握して適切な対応を図りましょう。




著者(田場 信広)プロフィール

・一級建築士、宅地建物取引士

・建築設計、工事監理、施工(大工)、戸建て木造住宅の新築からリフォーム全般、分譲マンションの内装改修、マンションの大規模修繕工事の設計・設計管理、警察署の入札仕事や少年院の特殊な工事も経験

・某資格学校にて2級建築士設計製図コースの講師を6年務める






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