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掲載:2021年06月13日更新:2021年06月13日

現場で嫌われない設計士は何が違うのか?

建築設計を行う人だけが建築士の資格を保有しているわけではありません。現場を統括する現場監督や事務職の人でも建築士資格を所有している人がたくさんいます。
ところがなぜか、設計者の立ち位置にいる建築士は、不思議と現場から嫌われることが多いようです。ときどき「設計者は現場を知らない」といわれて現場関係者から疎まれることも。

私自身は設計者、現場監督、また職人として現場に携わった経験があります。それぞれの視点から見た設計士や建築士の捉え方や、設計者が現場で良好なコミュニケーションを構築できるコツを紹介させて頂きます。なぜか「現場が苦手」と感じる建築士さんは参考にして下さい。

1.現場に行きたくない設計士の心理

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「現場に行きたくない」と本音を語る設計士は少なくないようです。また、現場には行くが長居したくないという心理を持つ設計士もいるようです。
同じ建築業界に属し、同じ建物に携わりながらも、設計業務関係者と現場サイドには大きな隔たりがあるのかも知れません。

では、なぜ設計士が現場に行くことを避けようとするのでしょうか。

私自身も設計事務所に所属して働いていたときは、現場に行くことに抵抗を感じていました。働きはじめて間もない時期であり、建築の知識も疎く、現場という場所が未知の世界であったことも心理的抵抗の理由の一つです。現場を訪問する設計士は通常1〜2名程度、定例会議のある大きな現場であっても10名にも及びません。

ところが現場で働くスタッフの数は非常に多く、現場事務所だけでも数名が所属しています。さらに各職方が実際に作業を行っているので、圧倒的に数量差で恐怖心が芽生えてしまいます。「職人気質の激しい人がいるのでは?」「慌ただしく作業しているのに邪魔ではないか?」「無知な部分を突っ込まれそうで怖い」「恥をかきたくない」という心理が現場へ足を運ぶ心理的抵抗に変わるのでしょう。

住宅クラスの小規模建築物であれば、なおさら現場作業に従事する職人との距離が近くなります。鋭い質疑に対応できない不安感を抱いたままの状態では、訪問する現場で長居したくない心理でいっぱいになります。


2.現場から見る設計士のポジション

現場で嫌われない設計士は何が違うのか?

では、現場サイドから見た設計士とはどのようなイメージなのでしょうか。

現場に嫌われる設計士像には共通する点があります。
世間ではよく混同されますが、「建築士=建築家」のイメージが設計者にも現場側にも存在するようです。設計の仕事を行う人たちは「強いこだわり」や「クセ」を持つ人が多く、特に建築家と称される設計士は特にその傾向が濃いようです。
譲れないポイントを貫き通すがために、現場サイドに無理難題を押し付ける。このような経験をした現場監督や職人も多く、設計士に対する根強い悪化したイメージがあるようです。

納まりや手順を知らない設計者」と悪評を抱く現場作業者も少なくはありません。私自身も現場監督時代は、何度も経験した苦い思い出です。また、単に高圧的な態度を取るだけでなく「図面に間違いや不明点が多い設計士」も現場から嫌われる対象です。
図面に存在する間違いの多くも「納まりを知らない」ことが起因しています。現場の流れを考慮せず「設計図通りに工事を進めろ」と取り付く島もない態度の設計士も。

このような横柄な態度を何度も見ていると、現場サイドの関係者は設計者に強い嫌悪感を抱くようになり、ますます両者の隔たりが強くなります。


3. 建築は共同作業意識が重要

現場で嫌われない設計士は何が違うのか?

設計者には設計者としての立場が、現場サイドには現場関係者の立場があります。両者の立場に溝が生まれるのは、互いの認識の差でしかありません。

そもそも、一つの「建築物」を完成させるためには、たくさんの人間が携わらなければならないことを理解できていないからこそ起きる無益な軋轢ではないでしょうか。

小規模建築物の一般住宅でも携わる業種は約20業種以上に及びます。
当然、メイン作業は大工さんになりますが、仮設業者、仮設足場屋、基礎屋、材木屋、屋根屋、外壁屋、サッシ屋、板金屋、タイル屋、防水屋、内装屋、電気屋、水道屋等々。どの業種1つ欠落しても建築物は完成しません。設計者には設計者の仕事があり、大工さんには大工さんの仕事があります。会社に例えると、社長には社長の仕事があり、事務担当には事務担当の仕事があります。不要となる職種や人材は一切存在しません。

「建築は共同作業」であるという意識がなければ、互いが互いの主義主張を行うだけのエゴの場所になってしまいます。
建築物は大小に関わらず依頼者が必ず存在し、依頼者に満足して頂いてこそ真の完成になります。自分の置かれた立場で発言する行為は、一社会人として弁えるべき行為です。

設計士が持つべき態度と考え方は、現場サイドの「工程や順序」「納まり」をしっかりと把握することです。両者の確執を拭い去るためには、知識・認識レベルを合わせなければなりません。


4. コミュニケーション能力の高い人の共通点

現場で嫌われない設計士は何が違うのか?

業種感の不和が生まれるのは建築の世界だけではありません。設計者と現場サイドと同じような立ち位置に属する人は多く存在します。
では、どのようにすれば互いの立ち位置を認め合い、共通認識が生まれるのでしょうか。

現場の事情や納まりを良く知る建築士は、現場サイドから嫌われることが少ないようです。現場の流れや相手の立場を考慮し、できるものはハッキリ「できる」、できないものは「できない」と言い切れる設計士は現場において強い影響力を持つようになります。
コミュニケーション能力の高い建築士が共通して持つスキルは「素直な気持ち」と「質問力」です。建築技術だけではなく、実際の施工現場で繰り広げられる順序や納まりをしっかりと把握しておかなければなりません。
人気を博した有名映画のセリフにも「事件は現場で起きている」というものがありました。建築もメイン業務は現場で繰り広げられています。面倒でも現場に足を運び、謙虚な気持ちで作業の流れや納まりを勉強させてもらいましょう。

現場を訪問する際は、「作業のじゃまをしないこと」「現場を汚さないこと」が重要です。また、休憩時間を利用して監督や職人との会話によるコミュニケーションも意識しましょう。設計士から見て現場は敵の集団ではありません。設計図をリアルな建物に具現化してくれる大切な人々であることを忘れてはいけません。


5.コミュニケーションのコツ「質問力」

現場で嫌われない設計士は何が違うのか?

設計士が現場で良好な関係を構築するためには、心構えだけでなく積極的なコミュニケーションが必要です。現場で簡単にできるコミュニケーションのコツを紹介します。

まずは「笑顔」です。
これは現場との関係構築だけでなく、依頼主や関連業者に対しても使える最強のコミュニケーションスキルです。無理な作り笑顔は必要ありませんが、いつもよりも少し余裕のある笑顔を心掛けましょう。自然な笑顔を作るためには、鏡を見て練習しておくことをオススメします。真顔から少し口角(唇の端)を上げるだけで十分です。「キムチ」などの「い行」の単語で音を発生すると良い感じの笑顔になります。
大人数が常駐する現場では不可能ですが、戸建住宅レベルの現場であれば、休憩時間を狙ってコーヒーなどを差し入れると高感度が上がります。物で人の心理を釣れという訳ではありませんが、人間には「返報性の法則」があり、何かもらうとお礼を返そうという心理が働きます。返すものがない場合、「親切にする」「丁寧な対応を取る」という行動が現れますので、上手に活用してみましょう。

また、最強のコミュニケーション会話術といわれるのが「質問」です。良い質問は相手を心地よい気分にさせるだけでなく、望むような適切な回答を得ることも可能です。質問には「YES・NO」で回答するクローズド質問と、より多くの情報を獲得できるオープン質問があります。上手に使い分けてコミュニケーションを図りましょう。


6.まとめ

いかがでしたか。
現場で嫌われる設計士と、嫌われない設計士の大きな違いは「コミュニケーション」の差でしかありません。自分の立場を優先した主義主張を通せば、相手の立場を傷付けることになります。互いを尊重しながら、共に依頼主のために良い建築物を構築しているという本来の使命を忘れないことが大切です。

また、簡単にできるコミュニケーション術はさまざまなものがあり、実践すればするほどどのような人に対しても良い関係を構築することが可能です。設計士と現場という隔たりを無くし、完成・引き渡しに向けて一丸となって現場を盛り上げていきましょう。


著者(田場 信広)プロフィール

・一級建築士、宅地建物取引士

・建築設計、工事監理、施工(大工)、戸建て木造住宅の新築からリフォーム全般、分譲マンションの内装改修、マンションの大規模修繕工事の設計・設計管理、警察署の入札仕事や少年院の特殊な工事も経験

・某資格学校にて2級建築士設計製図コースの講師を6年務める






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