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掲載:2022年02月14日更新:2022年02月14日

病院の仕上材の選定がとても難しい理由

病院の壁、床、天井など、内装の仕上を見ると、どこの病院でもよく似ていますよね。
外装に比べ内装仕上は、大抵どこの病院も似たようなデザインになってしまいます。
これは、病院の使用状況が特殊で制限が多いからなのです。

というわけで、この記事の結論は、以下の通りです。

・病院の仕上材の選定はとても難しい
・検討すべき要素を達成できないなら、無難なデザインにしよう


病院の仕上材の選定はとても難しい

病院の仕上材を選定する際には、病院特有の様々な条件をクリアしなくてはならないため、とても難しいと感じています。 その結果、無難なデザインばかりになってしまいがちです。

理由は以下の2つです。

1.病院の特性、使用状況を考えて材料を選ぶ必要がある
2.特殊環境に応じた施工性、まで考え抜かれた仕上げ材は案外少ない

順番に解説します。


理由1:病院の特性、使用状況を考えて材料を選ぶ必要がある


一般的な建築設計では使用者のことを想定してデザインや材料を決定しています。
病院であれば抗菌仕様の方がいいなというのは想像できるでしょう。
病院の設計では他の設計と比べても、特に病室を使用する患者の特性を考えて材料を選ぶことが重要な要件となって来ます。

デザインと価格だけでは選べない

通常の設計では、使用者が通常の人ですから、割と自由なデザインができます。
こんなオフィスだったら働きやすい、こんな住宅だったら落ち着ける、といったことを想定してデザインするわけです。
また、デザインには設計者の意図以外に住む人のデザインセンスや希望なども反映されますし、住む人が決まっていない場合は、万人受けするようなデザインや機能性重視のデザインが採用されることでしょう。

そのようにしてデザインが決まるわけですが、多くは予算が最初から決まっているので、完全に自由なデザインはできません。 予算の中での優先順位をつけていくことで、ここは好きなデザインに、ここは予算をおさえて無難なものにしようなどと決めます。

ところが、病院はデザインと価格ばかりで建材を選ぶわけにはいきません。
なぜなら、必要とされる機能が特殊だからです。

材料の選択を間違えると医療事故に?


床を素敵なデザインにしたいからと、柄物の長尺シートや塩ビタイルを選ぶとどうなるでしょう。
柄物ですから汚れはほとんど目立ちませんし、患者さんも楽しめるデザインになり、待ち時間に退屈しないかもしれません。

一方で、注射針を間違って落としてしまった場合を想定してみましょう。
そうなると、探すのがすごく大変になります。また注射針が柄にまぎれてしまって、拾い漏れが出てしまうこともあるでしょう。
万が一、間違って誰かが転んで注射針に刺さったりすると、もはや医療事故です。
それは、設計の段階で起きてしまった事故と言えるかもしれません。


そんな問題になるくらいなら最初から想定できるトラブル回避のため、無難なデザインの方が良いに決まっています。

耐薬品性の仕上材、抗菌の仕上材、心理学的安心など検討すべき要素が多い


病院の仕上材は検討すべき要素が多いです。たとえば、精神科の病棟を想定してみましょう。
精神科では様々な事情で、精神を壊してしまったような人が入院しています。精神を壊してしまった人は思い込みが激しかったり、妄想が強かったりする人が多い傾向があります。

そんな状況でジプトーンのような石膏ボードを天井に使用するのはNGです。
なぜなら、ジプトーンの変化に富んだトラバーチンの模様が虫に見えて暴れてしまうかもしれません。

ジプトーンは一般的には住宅にもオフィスにもよく使われており、汚れや傷が目立たなくて人気があります。そのジプトーンですら安易に使ってしまうと予期せぬトラブルが発生してしまう可能性も排除できません。
トラバーチン模様が虫に見えるというのは、経験したことがある人にしか気付けないことでしょう。
このように、自由にデザインした結果、患者さんに不安を与えたりする病院になってしまったら困ります。

また、薬品を使うような部屋では薬物汚染してしまうと問題です。
そのため、耐薬品性のある床材を使用します。
特殊な床材ですから、デザインが豊富にあるわけではありません。
そうなると、必然的に無難なデザインにせざるを得ないという状況があります。


理由2:特殊環境に応じた施工性、まで考え抜かれた仕上げ材は案外少ない


2つ目の理由は、工事のことまで考え抜かれた仕上材はあまりないということです。
たとえば、デザイン性に優れた建材は施工性があまり良くなく、施工性が良いものはデザイン性がすごく高いわけではない、といったことが起こります。

ケーススタディ:耐薬品性床材の施工例


ー 耐薬品性のコーティングは温度に弱いが、工事は加熱しないとできない

少し具体的な例を話しましょう。
病院の床材であれば耐薬品性のコーティングを施された床材を使用します。
薬品をこぼした時に床が薬剤で汚染されたら困るからです。
機能性としては耐薬品性は十分でしょう。

一方で、施工のことを考えると状況が変わります。

長尺シートであれば、専用の目地棒で溶接して長尺シートを一体化させるのが通常の施工方法です。オフィスなどの長尺シートであればなんの問題もなく施工できるでしょう。
ところが、耐薬品性のコーティングがされていると問題が起こります。
耐薬品性のコーティングは焦げやすいのです。
そのため、温度管理をシビアにして施工します。


一般的に、工事業者はスピーディーに施工しないと利益が出ません。
しかしながら、施工状況の管理をしっかりとできる会社はそれほど多くないのです。
慣れていない材料を使うとなったら、なおさら難しいです。
工事業者もすごく慎重になるでしょう。
なぜなら、うまく施工できなかったら工事業者のせいにされるからです。

ー 使用者にとって最適な建物を造ることが最優先

建設プロジェクトというのはみんなが同じ方向を向いていないとうまくいきません。良いものを作ろうとしているときに、できるだけ設計通りにしたくても、工事業者の力量によっては選定した材料は使えないこともあります。

いつも使っている建材をいつもどおり施工するのが、設計通りミスなく施工できます。
材料を選定するのが設計で、設計通り施工するのが工事業者だとはわかっています。
ですが、やはり理想と現実は違うものです。設計通り施工できなければ施工できるものに変えるしかありません。できないものをやれといっても、できるようにはならないのです。


良い設計とは自分のエゴを通すものではありません。
使用者にとって使いやすい建物を作ることです。

そう考えると、実力がない段階で病院の仕上材を独自の基準で選定するのはリスクが高いと言えるでしょう。既存の病院の仕上材を使っていれば、少なくとも問題は最小限で済みます。
設計した建物ができあがってみたら、使用者にとって使いにくいというのは最悪の状況です。

病院の仕上材の選定は無難なものを選んだほうが、結果的に良い建物ができあがるでしょう。


4.まとめ

この記事では、
・病院の仕上材の選定はとても難しい
・検討すべき要素を達成できないなら、無難なデザインにしよう
というお話しをしました。

仕上材の選定に悩んだら、既存の病院を調査して同じ仕上材を使いましょう。


著者(きくりん)プロフィール

ゼネコンで一級建築士&一級建築施工管理技士業務

「一級建築士への道」記事執筆 





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