人生100年時代に向けた長く住める家づくり
これから家を購入しようとしている方は、住宅内事故が意外と多いことをご存じでしょうか?
小さなお子さんをはじめ、高齢者の転倒事故も目立ちます。
転倒・転落というのは極めて身近な問題であり、自分自身だけでなく大切な家族にも影響を与える重要な問題です。
20年後、30年後にこの家でよかったと思うためにはどうしたらいいのでしょうか?
ここで確実に言えることは、誰でも平等に年を重ねていくということです。例外はないからこそ、自分たちは年を重ねるとどう変化するのか、その事実から目を逸らさずに考えていくことが重要です。
年齢を重ねるだけでなく、子どもや妊婦さんにとってなにが危険なのかなど現時点で分かっている事実をもとに「安全に健康的に、怪我をしない家づくり」の工夫点をお伝えできればと思います。
1.階段には必ず手摺を!手摺の高さは大腿骨大転子を目安に
手摺の高さを設置するうえで大切なことは、大腿骨大転子の高さに手すりを設置することです。
階段の段鼻から大腿骨大転子までの高さの位置に手摺上部が位置するように設置することで、住まい手に取って使いやすい手摺の高さになります。
一般的な分譲住宅だと、手摺の高さは750mmで取り付けられています。
しかしこの手摺の高さだと150cm前後の身長に合わせた高さになってしまっているので、この身長より高い身長の方ですと、かなり低い位置に手摺がくることになってしまいます。低い場合は使いにくい高さとなり、せっかく設置しても転倒を誘発させる結果に繋がってしまいます。
もしも住まい手が数人いて、全員の身長差がある場合には、「身長が高い人」にあわせて手摺を設置することが重要です。
1階の床から数段部分にも手摺を設置
建築基準法施工令第25条により、階段に手摺を設置することが義務付けられています。
しかし、高さ1000mm以下の階段の部分には適用しないという内容も盛り込まれており、この内容の解釈によって床面から数段の部分には手摺がなくても法的には問題はありません。
しかし、最近の住宅では階段の1階床面から数段部分まで手摺を設置していないケースが増えています。手摺がないことは転落リスクを増やします。
そのため、「お洒落」「スタイリッシュ」「かっこいい」というだけで手摺をなくすことはとても危険です。
実際に、手摺がない階段部分から転落し骨折する事故も多数起こっています。こういった事故で年齢や身体に介護が必要な状況でまで悪化してしまうこともあります。
転倒・転落防止のためにも1階床面から数段部分にも手摺を設置することをお勧めします。
まわり階段は踊り場付きに
まわり階段を施工する際によく使用されているのが内側が30°の踏板です。
仮に180°向きを変える際には、まわりが30°×6段、90°向きを変える際には30°×3段になります。
納まりのことを考えると、使い勝手のいいまわりの方法です。
しかし、まわりの部分の踏板が内側30°と鋭角のため、踏み外しのリスクがあります。外側の広い部分を通れば問題ないのですが、とくに若年層が内側を通る傾向があり、鋭角部分に乗り、転倒しやすい傾向にあります。
まわり部分は踊り場にすることで若年層の転倒防止に繋がるだけでなく、高齢者にとっても向きを変える行為が安易にできるようになります。
踊り場設置が難しいパターンも・・・
ただし、土地面積などの影響で踊り場が難しい場合もあります。
その場合は、たとえば180°まわりのケースであれば内側の角度を広げた45°×4段にして、まわり階段の1段あたりの内角度を広げることも有効です。
踏面には滑り止めを
階段から転落する原因として最も多いのが踏み外し、次いで滑りとなっています。階段からの転落防止のために「滑り止め」を設置しましょう。
最近の住宅では段鼻部分に溝をつくって滑り止めとしている例も多いですが、それだけでは転倒してしまったという例も多くあります。溝部分にゴム製の滑り止めが設置されている商品もあるので、そちらを検討することも方法のひとつです。
あるいは、既存住宅であればネットでも階段の滑り止めが販売されており、こちらであれば安価で設置も可能です。
金額面も考慮して、ご自身にあった滑り止めを選択しましょう。
2.玄関を散らかさない土間収納
車いすやベビーカーだけに限らず、土間収納を設けておくことで玄関土間を散らかさないで済むことに繋がります。例えば子育て世帯であれば外で遊ぶ際のおもちゃや、ガーデニングを楽しむ方であれば用具を収納することもできます。
また、靴を散らかさないためのシューズボックスを設置することで、玄関土間を散らかすことを避けることができます。来客時にも靴がすっきりとできるので安心です。
玄関土間のスペースをつくることで、つまずきを防止することもできます。
靴着脱のための椅子を将来的に設置するとすれば、より土間があることでそのスペースをつくることができます。
3.トイレの入り口は引き戸に
トイレは一日のうちに何度も使う場所であり、生活するうえで欠かすことのできないスペースです。
また、病気やケガなどにより身体状況が変わり、介護保険による住宅改修でも真っ先に手を付けられやすいのがトイレになります。特にトイレを開き戸から引き戸に変える改修が最も多かったです。
また、引き戸のほうがバランスも崩しにくいので、長く住むことを前提に考えるならば、最初から引き戸にしておくことをお勧めします。
引き戸であれば、有効開口部が780mm以上確保できるので、コンパクト車いす、歩行補助具でも通行することができます。
引き戸が設置できないときの対処法
現時点で開き戸や引き戸にしたくても構造上の問題でできない場合もあります。そんなときにおすすめなのが、アウトセット引き戸や折れ戸です。
アウトセット引き戸は、控え壁がなくても引き戸を設置できます。壁に直接レールを設置することで引き戸として使用することができるだけでなく、安価に設置することができます。
もうひとつは折れ戸です。商品にもよりますが、有効開口が広くなる場合もあります。
ただし、有効開口がアウトセット引き戸で760mm、折れ戸で750mmなので、控え壁をとれた引き戸の780mmよりは狭くなります。
まとめ
大切な人を守ろう、という思いは誰にでもある気持ちです。
近年では、災害などの影響もあり安心安全な家づくりに対しての関心が高まりつつあります。
この記事を通して、安心安全な間取り・家でより良い住宅内環境を実現し、そしてそれが最終的に自分の大切な人のために必要不可欠なものであると実感していただけると幸いです。
建設会社にて2×4工法、RC造の建築物の設計・積算を担当。
住まいでの快適な暮らしや建築に関するニュースを執筆していきます。