「パッシブデザイン」とは?これからの家づくりを考える
家づくりを考えている方の中には「パッシブデザイン」という言葉を目にしたことがあるという方もいらっしゃるのではないでしょうか。パッシブデザインとは、自然エネルギーを活かした設計手法で近年注目を集めています。
今回はパッシブデザインの概要や、メリット・デメリットなどを解説します。
1.パッシブデザインとは
パッシブデザインの「パッシブ(passive)」とは、「受動的、消極的」という意味を持ち、「アクティブ(active)」の対義語としてさまざまな分野で用いられます。パッシブデザインは、言い換えると「受動的なデザイン」となりますが、どういうことかイメージしにくいですよね。
家づくりにおいてパッシブデザインとは、自ら機械や設備を動かすのではなく、太陽の光や心地よい風などの自然エネルギーを効率よく上手に利用することで快適な住環境をつくり出すことをいいます。人にも地球環境にもやさしく、省エネにもつながることが注目を集めている要因の一つといえるでしょう。
パッシブデザインに対して「アクティブデザイン」は、先進技術や設備を積極的に取り入れて、室内環境を快適なものにする設計手法です。どちらも省エネにつながるという点で変わりはなく、どちらが優れているということもありません。住宅を建てる地域や周辺環境、自分が求めている暮らし方などによって適した設計手法は変わってくるでしょう。
2.パッシブデザインの重要な要素
パッシブデザインには明確な基準はありませんが、設計を考えるうえで欠かすことのできない要素がいくつかあります。代表的なものとしては次のような項目が挙げられます。
通風
自然の中で感じる風は、とても心地よいですよね。自然エネルギーである「風」の力は、パッシブデザインにおいて大切な要素です。自然の風を上手に利用することで、エアコンなどの空調設備に頼りすぎることなく快適な空間がつくれます。
そのためには、風の流れを意識することが重要です。空気には暖かいほど上昇し、冷たいほど下に溜まる特性があります。地窓や高窓を設置し、風の力を利用して空気を循環させ排出や吸入を行います。通風に適した窓を選び対角線上に設置すると、より効率よく風が流れ換気の役割も果たしてくれます。空気が流れると、湿度の調整にも良い効果をもたらします。
昼光利用
明るい太陽の「光」は、快適な住空間に欠かせません。家の中に十分な光を取り込むには、季節や時間の変化による太陽の動き、周辺の状況などを考慮する必要があります。それらをもとに窓の大きさや配置を考えるのが得策です。室内建具にはガラスが組み込まれたものを用いると、部屋の奥まで光が届きやすくなります。
日射熱利用
太陽から得られる自然エネルギーは、光だけではなく「熱」も重要な要素です。特に冬は太陽の暖かい熱を室内に取り込むことで、暖房器具の利用が軽減でき光熱費の削減にもつながります。
太陽の熱を利用した「蓄熱暖房」は、日差しが暖かい日中に日射熱を集め、水やコンクリートに蓄熱し夜間に放熱します。集熱と蓄熱を繰り返すことで、室内温度を快適な状態に保ちます。季節によって太陽の位置や動きが変化するので、日照シミュレーションなどを参考にしながら設計します。
日射遮蔽
先述の太陽の光や熱を利用する考え方とは矛盾するように思うかもしれませんが、夏の強い日差しを遮り、室内の温度上昇を抑えることで家の中を快適に保つという考え方です。
集熱や蓄熱と同様に、排熱もパッシブデザインを考えるうえでは軽視できず、それらのバランスがとても重要です。軒や庇を工夫して外側から光を遮蔽したり、ブラインドやシェードなどの窓まわり製品を取り入れて室内側から光を遮る方法があります。
ツル性植物の植物を用いてグリーンカーテンとするのも人気の方法です。
高気密・高断熱
自然エネルギーをどう取り込むか、どのように利用するかということも大切ですが、建物自体を強化し性能を高めることもとても大切です。ポイントは「気密性」と「断熱性」です。気密性と断熱性が低い建物では、外気温の影響を受けやすく、せっかく取り入れた自然エネルギーも逃してしまいます。それぞれの性能を向上させることで、夏は涼しく冬は暖かい室内環境が実現できます。
そのためには構造部分に断熱材を使用したり、木製や樹脂製のサッシを選ぶ、複層ガラスにする、といった方法がよく用いられています。家の中の温度差をなくせば光熱費の軽減だけではなく、体への負担も減らすことができます。
3.パッシブデザインのメリット・デメリット
次にパッシブデザインによって得られるメリットと知っておきたいデメリットについて解説します。
メリット
パッシブデザインの最大のメリットは、できるだけ機械や設備に頼らず自然エネルギーを活用することで、光熱費の負担が軽減できるということでしょう。通常の住宅を建築するよりもコストがかかることもありますが、建築後の生活ではランニングコストを減らすことができます。
また、二酸化炭素の排出量も減少も少なくなるため、世界的に取り組まれている地球環境への負荷の軽減という課題にも貢献できるでしょう。一年を通して室内環境を快適に保つことができるのも、パッシブデザインの大きな魅力です。先述のように、パッシブデザインでは家のどこにいても心地よく過ごせるように工夫します。
室内での過度な温度変化は体への負担が大きく、冬に起こりやすい「ヒートショック」は、このような温度差によって起こるものです。ヒートショックが原因で亡くなる方は交通事故よりも人数が多いといわれています。主に高齢者が多いのですが、若い方でも飲酒や喫煙などとの関連もあり危険性は指摘されています。室内環境を整えるということは、こういった住宅内でのリスク軽減にもつながります。
デメリット
パッシブデザインの家は、通常よりも建築コストが高くなる傾向にあります。気密性と断熱性を高めるため、断熱材やサッシに高性能のものを使用することで価格が高くなります。庇やシェードなどの採用、蓄熱暖房システムの導入なども建築コストが高くなる要因です。初期費用はかかりますが、光熱費の軽減につながるため長期的に考え検討することが大切です。
また、自然エネルギーの活用が必須要素のため、立地や周辺環境によってはパッシブデザインが採用できないこともあります。地域や地形、立地条件などにより日照時間や風量などの条件は変わるため、土地選びに制限が生じることもあるでしょう。建物の向きや窓の配置なども、自然エネルギーを取り込むことを考えた結果、自由にデザインを決められないと感じるかもしれません。
優先したいことは何か、事前にしっかりと考えておくことが大切です。
まとめ
パッシブデザインとは、太陽の暖かな光や爽やかな風など自然の恵みを活用しながら、快適な住まいを実現する設計手法です。地球環境にも配慮した手法で、未来の自然環境保護にもつながります。快適な室内環境をつくることは、住む人にも優しい住まいといえるでしょう。
できるだけエコな生活がしたい方や、健康的な暮らしがしたい方におすすめです。
建築・インテリア系の専門学校卒業後、工務店にて建築業務に携わる。
福祉住環境コーディネーター2級。
二児の母。